キヤノンMJが“臭い”と“菌”の問題を解決? 「次亜塩素酸水溶液 脱臭・除菌システム」とは
2024年11月26日
私たちが健康で心地よく過ごすためには、快適な環境づくりや衛生管理が欠かせません。日常生活はもちろん、さまざまな事業の場でも、働き手や地域住民への配慮、安全性向上などの観点から、「脱臭」や「除菌」に対するニーズが高まっています。
実は、その課題解決にキヤノンマーケティングジャパン(以下、キヤノンMJ)が貢献しているんです。それが、「次亜塩素酸水溶液 脱臭・除菌システム」。
キヤノンMJと脱臭・除菌。なかなか連想しづらいかもしれませんが、一体どんなソリューションなのでしょうか。キヤノンMJの取り組みとそこに懸ける想いを、産業機器事業部 新規ビジネス推進部の月橋 裕太さん、岩根 知宏さん、加藤 直樹さんに聞いてみました。
「臭いで眠れない」…さまざまな産業や生活の場で高まる、脱臭・除菌へのニーズ
― 「脱臭」や「除菌」に対するニーズが高まっていると聞きました。最近では、どんな場所、どんな業界から声が上がっているのでしょうか。
岩根:まず脱臭ですと、さまざまな産業の施設で臭気の問題が生じています。
例えば、食品残渣(「ざんさ」。調理くず、消費期限切れ食品などのこと)を肥料などにするための再資源化施設、下水道の汚泥処理施設、食品残渣や汚泥を含む都市の廃棄物を活用したバイオマス発電施設などです。食品を作る工場でも、残渣を一時的に保管するピットから臭気が生じて近隣の方々からクレームが発生するケースがありますし、工場で働く方や来訪者への配慮としても、臭気対策が必要とされています。
また、かねて畜産が営まれていた地域の周辺が都市化して、住宅地が近づいてきたことにより、新たに臭気問題が生じるケースも増えています。とある自治体の意識調査では「臭いで眠れない」「洗濯物が干せない」などの声が寄せられているそうです。
加藤:従来の脱臭方法として、水洗や薬液による洗浄、活性炭やおがくずへの吸着、微生物による分解などがありますが、臭いを感じないレベルまで臭気を取り除くためには、いろいろな方法を積み重ねる必要があります。それには莫大なコストがかかり、事業主には大きな負担となるため、現実的に解消が難しい面があります。そうした状況から、コストをできる限り抑え、確実に臭気を解消できる脱臭方法が求められていました。
―では、除菌についてはどうでしょうか?
岩根:除菌についても、医療の現場からご家庭に至るまで、幅広い産業領域において、さまざまなニーズが生じています。
例えば、食品業界では安心安全な食を届けるため、食材や厨房機器の除菌・洗浄が必要とされますし、畜産業においては牛、豚、鶏など家畜の疾病を防ぐため、施設などの除菌・洗浄が求められています。
また、新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけに、一般の方においても衛生意識が高まり、日常生活のあらゆるシーンで除菌が行われるようになりました。そうした中で、臭いや刺激の強いアルコールに代わる除菌方法へのニーズが高まっています。
加藤:脱臭・除菌ともに、さまざまな領域でニーズが高まっていますが、特に食に関連する分野からの声が多く聞かれます。近年、社会課題として食料自給率やエネルギー自給率の低さが問われていますが、脱臭・除菌のニーズに応えることによって、その課題解決に間接的に貢献できるのではないかと考えています。
さまざまな臭気に効果を発揮し、除菌効果も高い、次亜塩素酸水溶液を活用
― そうした状況の中で導入が広がりつつあるのが、キヤノンMJが開発した「次亜塩素酸水溶液 脱臭・除菌システム」なのですね。そもそも、次亜塩素酸水溶液とはどういうものなのですか?
月橋:次亜塩素酸を主成分とした、弱酸性から酸性の水溶液です。他の脱臭方法と比較して、さまざまな臭気に効果を発揮し、高い脱臭・除菌効果を持ちます。
そもそも、臭気は多くの原因物質が絡んで起きるため、他の脱臭方法の場合、原因物質ごとにいくつもの脱臭方法を重ねて行う必要がありました。しかし、次亜塩素酸水溶液の場合、アンモニアや硫化水素などを含む、さまざまな特定悪臭物質に対し幅広く作用し、これまで脱臭効果が得にくいとされてきた低級脂肪酸やアセトアルデヒドも効果的に脱臭することが可能です。
また人体や動物に対する安全性が極めて高く、食品などにも使用可能であること、さらにランニングコストが低い点も大きなメリットです。
ただ、日持ちしないという弱点があります。脱臭・除菌には酸化力が強いことが重要であるため、pH値が適切に調整されていることが不可欠です。しかし、配送や保管などで時間が経ってしまったり、紫外線を浴びたりすることによって化学変化が起きてしまい、酸化力が弱まった次亜塩素酸水溶液が出回るなどの問題も発生していました。
― 「次亜塩素酸水溶液 脱臭・除菌システム」では、その弱点をどのように克服したのでしょうか。システムの特長を教えてください。
岩根:使用する現場で、次亜塩素酸水溶液を安全に生成できるシステムを構築しました。次亜塩素酸水溶液の生成にはいくつか方法があるのですが、私たちは次亜塩素酸ナトリウム希釈水にpH調整剤として炭酸ガスを使用した混合方式を採用しています。炭酸ガスの緩衝作用により、塩素ガスが発生することなく、安定した生成を行うことができます。この方法ですと、他の方法と比較して、高濃度の次亜塩素酸水溶液を安全に低価格で大量に生成することが可能です。常にフレッシュで酸化力の強い次亜塩素酸水溶液を使用することで、脱臭効果を高めることができます。
加藤:効果を高めるという点では、生成した次亜塩素酸水溶液をより効率よく反応させることも必要です。私たちはこのシステムを脱臭の領域から展開し始めたのですが、密閉された空間に臭気を導き、次亜塩素酸水溶液を噴霧したりシャワーしたりすることで脱臭する「スクラバー方式」と、臭気が漂う空間に次亜塩素酸水溶液を圧縮空気と一緒に噴射して脱臭する「スプレー方式」の二種を開発しました。
どちらをご提案するかは、臭気の強さ、お客さまの設備の空気の流れなど、さまざまな条件によって変わりますが、臭気が強かったり、臭気を外部に出せない厳しい条件があったりするところではスクラバー方式をご提案することが多くなっています。
月橋:臭気は目に見えないものですから、どのくらい効果があるのか、どのくらいコストがかかるのか不安に思われるお客さまもいらっしゃいます。私たちは、どのような種類、濃度の臭気を、どのくらいまで下げることが必要なのか数値として把握し、必要な次亜塩素酸水溶液の濃度、使用量、想定ランニングコストのシミュレーションを行い、事前にご説明しています。数値で効果予測を把握いただけるので、お客さまにとって導入のご検討をしていただきやすいようです。
― 現在は、どのような施設で活用されているのですか?
岩根:先ほどお話しした通り、まずは脱臭領域から展開を始めています。2019年に事業化して以降、大手食品加工会社の工場やバイオマス発電施設、肥料の再資源化施設、下水道の汚泥処理施設、畜産施設などに導入いただきました。
「次亜塩素酸水溶液 脱臭・除菌システム」導入例
鳥取中央農業協同組合(JA鳥取中央)が2024年7月より運営を開始した、鳥取県琴浦町の新堆肥センター。食料の安定生産に不可欠な肥料は、原料を海外からの輸入に大きく頼っており、近年価格も高騰。そこで、家畜の排せつ物などを肥料にすることで、地域における資源循環を実現し、持続可能な農業生産基盤を整備することを目指して建てられた。堆肥化の工程で発生する強い臭気への対策として、キヤノンMJの「次亜塩素酸水溶液 脱臭・除菌システム」を導入している。
また除菌領域では、ある自治体の畜産試験場と組み、子牛の疾病対策としての有効性を評価検討している段階です。良い結果が得られれば、豚や鶏への展開を進めていきたいと考えています。
月橋:おかげさまで、脱臭効果は抜群という声をいただいています。とある食品関係のお客さまは、食品残渣を一時保管するピットから臭気が隣の工場の食堂に流れてしまいクレームが発生していました。そこで当社のスクラバー方式の脱臭システムを導入いただいたところ、その臭いが見事に解消されました。
そのお客さまは「導入を検討している方がいたら、効果を実感してもらうためにうちに連れて来ても良いよ」と言ってくださるほど、数値はもちろん、体感としての効果にも満足してくださいました。
キヤノンMJの強みを生かし、新たな分野の事業にチャレンジ
― ところで、なぜ、キヤノンMJが脱臭・除菌の課題解決に取り組んだのでしょうか。とても意外でした。
加藤:私たちが所属する新規ビジネス推進部はその名の通り、新規事業の発掘・開発に取り組んでいる部署です。社会課題を解決し、未来を創るさまざまな事業を検討する中で、2016年頃、ご縁があって存在を知ったのが次亜塩素酸水溶液でした。キヤノンMJの既存事業とは異なる領域でしたが、次亜塩素酸水溶液の安全性と脱臭・除菌の高い効果に可能性を感じました。
私たちの部署はもともと海外の半導体装置を扱っており、その経験から、既に存在するものを市場ニーズに合わせて再設計し、新たな価値を生み出すノウハウを豊富に持っています。そうしたノウハウを生かし、市場調査や研究開発を進めた結果、環境(脱臭)と衛生(除菌)の二つの分野で社会課題の解決につながる事業を展開できると考えました。
そこから3年をかけて開発を行い、自治体の研究所にもご協力いただいて実証実験を実施。その成果に基づいて、畜産分野から事業展開を進めました。
― 開発や事業化で難しかったことはありますか?
加藤:半導体と異なり、臭いは変動するものなので、技術開発やデータ解析をする際に頭を切り替えて取り組む必要がありました。
また、新しい事業でしたから、相談先や営業先をゼロから開拓していくことも大変でした。キヤノンMJが脱臭システムを開発していると言っても、最初は誰も耳を貸してくれませんでしたから(笑)。社内外への情報発信と実績を地道に積み重ねていったことにより、徐々に信頼をいただき、お問い合わせにつながるようになりました。
岩根:異分野への挑戦だからこそ、これまでのキヤノンMJの強みが生きたところもあります。原因物質に対する脱臭のシミュレーションを行い、それに基づいて事前にランニングコストを予想したうえでシステムをご提案できるのは、私たちが設計からお客さまへの導入まで一貫して手がけているからこそだと思います。
脱臭・除菌のソリューションで、食料自給率のほか、さまざまな社会課題の解決に貢献していきたい
― では、「次亜塩素酸水溶液 脱臭・除菌システム」の今後の可能性をどのように感じていらっしゃいますか?
月橋:間接的ではありますが、さまざまな社会課題の解決に貢献できるものだと考えています。先ほど食料自給率の話がありましたが、日本は、食べ物を作る上で欠かせない化学肥料のほとんどを輸入に頼っています。その対策として、国土交通省や農業水産省は、畜産農家から出る糞尿や下水汚泥を肥料化し、循環利用することを推進していますが、それに伴う臭気問題はまだまだ解決できていないのが現状です。
ただ、事例に挙げたJA鳥取中央さんのように、脱臭システムを取り入れた新たな堆肥センターも誕生しています。このようにわれわれのシステムを広げていくことで、日本の食料自給率の向上に寄与できるのではないかと考えています。
岩根:近年、畜産業界では子牛の疾病、豚熱や鳥インフルエンザなどの疾病が大きな問題となっています。現在評価検討を進めている除菌の機能を早急に実用化し、動物・家畜の健康な生育を支えていきたいです。家畜が病気などにならず快適に暮らせることは、畜産業の収益性向上が期待できるだけでなく、世界的に関心が高まっている「アニマルウェルフェア」(動物福祉)の改善にもつながると考えています。
加藤:日本が世界と比べて後れを取っていると言われるHACCP(ハサップ。食品の安全を確保するための衛生管理手法)の推進や、再生可能エネルギーの活用推進、医療現場への貢献、災害時の感染症対策など、あらゆる社会課題の解決につながる事業だと考えており、ひいてはIoTによる管理システムへとつながっていくと考えています。
私たちは、将来的に、次亜塩素酸水溶液を起点に持続可能な街・空間を創っていく「グリーンベルト構想」を掲げています。
次亜塩素酸水溶液による脱臭・除菌を提供していくことで、より多くの方の安心・快適な暮らしに貢献していきたいと考えています。
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