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オンラインコミュニケーションを一歩進める装着型減音デバイス「Privacy Talk」
人の行動や気持ちを変化させたい想いが導く新プロジェクトの裏側

2024年3月11日

働き方やライフスタイルの変化に伴い、コミュニケーションの手段も多様化しています。ビデオ通話などのツールが普及したことで、さまざまな場所や環境でのオンラインコミュニケーションが可能になりました。しかし、声を発する際には周囲への配慮が必要だったり、周りの雑音が会話の妨げになったりと、いつでも快適なコミュニケーション環境を整えられるわけではありません。

そんな中、キヤノンマーケティングジャパン(以下、キヤノンMJ)の企業内起業「ichikara Lab(イチカララボ)」 は、オンラインコミュニケーションの悩みを解消する装着型減音デバイス「Privacy Talk」のコンセプト企画を行い、商品化を目指してプロジェクト活動を行ってきました。2023年7月にコンセプトモデルを発表し、同年10月より応援購入サービス「Makuake」にて先行販売を実施。2024年2月に正式発表しました。

「プロダクトそのものよりも、それが社会に与える変化が楽しみ」と語るのはichikara Labの吉武 裕子さんと前田 諒さんの二人。常に少し先の未来を見据えながら、課題解決に挑戦する二人に、本プロジェクト立ち上げの背景やプロダクトに込めた想いについて聞きました。

自分の声を減音し、周囲の雑音も軽減!オンラインコミュニケーションのサポートツール

本日はよろしくお願いします。先立って「Privacy Talk」のビジュアルを拝見したのですが、最初は「キヤノンMJはマスクも販売するようになったのか…?」と驚きました。でもどうやらただのマスクではないらしいということで…。

前田:はい、実はマスクの形はしていますが、そもそもマスクではないんですよ。Privacy Talkは、イヤホン・マイク・ファンを搭載した「装着型の減音デバイス」なんです。マスク形状のカバーを使って装着することで自分の声を減音し、 周囲にいる人は内容を聞き取りづらくなります。また同時に周囲の雑音もマイクに入りにくくなることで、オンラインで会話する相手にとってもストレスのないコミュニケーションを実現します。

外出先でのリモートワークや出社時の自席など周囲に人がいる場所でのオンライン会議参加といったビジネスシーンはもちろん、自宅以外の場所でオンライン語学レッスンを受けるなど、プライベートシーンも含めた幅広いシチュエーションで活用できます。

― なるほど! オンラインコミュニケーションをサポートしてくれるんですね!これは便利そうです…。でも、イメージ的に意外なのですが、どのような経緯からこれを企画しようということになったのでしょうか。

前田:本プロジェクトが立ち上がったのは3年半ほど前、ちょうどコロナ禍に突入したタイミングでした。前々から働き方改革が叫ばれていた中での外出自粛ということもあり、急速にオンラインでのコミュニケーションが浸透しました。

そうした状況を経て現在では、対面・オンライン両方のコミュニケーションが求められるニューノーマル時代の働き方になったと思います。

自宅やオフィスはもちろん、コワーキングスペースやカフェなど、さまざまな環境で仕事ができるようになりましたよね。

前田:はい。もちろん職種や業種によるところも大きいですが、働く場所や働き方の選択肢が増え、自分の働き方に合わせて選べるようになった方も多くなってきました。

実際に約1万人のビジネスパーソンに独自調査をした際も、約半数以上の方がオンラインコミュニケーションツールを使用しており、その中の半数以上が週1〜2回以上使っていることが分かりました。

キヤノンマーケティングジャパン コンスーマ新規ビジネス企画部 ichikara Lab 前田 諒

それだけオンラインコミュニケーションが一般化したということですね。

前田:そうですね。それに伴って、コミュニケーションにまつわる新たな課題も生じていました。例えば、外出先で自分の声が周囲の迷惑になっていないか、あるいは周囲の雑音がオンラインコミュニケーションの相手の迷惑になっていないかが気になるという方も多いのではないでしょうか。また、周囲に発話した内容を 聞かれてしまうことで、業務的な情報の漏洩を懸念する声もあります。

吉武:自宅でも、例えば夫婦で在宅ワークをしていてオンラインミーティングの時間が重なってしまったり、子どもの声が相手の迷惑になるのではないかと気にされたり というケースがあります。

前田:オフィスでも会議室が埋まっていると、自席やオープンスペースでオンライン会議をしなければならないですよね。なるべく声を小さくして話したり、人がいない場所を探したりと、各々が工夫してどうにかやりくりしているのが現状だと思います。

アイデアの源泉は、若者の「聞かれたくない話があるんだ」!?

働き方が自由になったといっても、それはそれで問題は出てくるものですね……。そういった“不”の側面が今回の企画 につながったということですね。

吉武:そうですね。ただ、この訴求ポイントは「ビジネスシーンを中心としたオンラインコミュニケーションの課題解決」ですが、実はもともとは“若者の気持ちに寄り添うこと”からスタートしたアイデアなんです。

  • 不満・不安・不公平など、「社会における誰かの困りごと」を指す
キヤノンマーケティングジャパン コンスーマ新規ビジネス企画部 ichikara Lab 吉武 裕子 

― 若者の気持ち、と言いますと?

吉武:私たち「ichikara Lab」は、若年層マーケティングの強化と新たな顧客層へのリーチを目指し、恒常的に幅広い若年層と活動しているキヤノンMJ初の企業内起業です。その取り組みの中で、コロナ禍をきっかけに急速に変化したコミュニケーションの在り方について、入社10年目までの若手メンバーたちと一緒にディスカッションをしたんです。

そこで出てきた意見の一つが「自宅でオンライン飲み会をするときに、家族に話を聞かれるのが恥ずかしい」というものでした。

前田:その悩みを深掘りしていくと、「恋人と電話するときも親に聞かれたくないから、わざわざ外に出て電話をする」とか、オフィスでの仕事中でも「お客さま先との会話を周囲に聞かれるのが恥ずかしいので廊下で電話をする」といった声も出てきました。

ichikara Labメンバーのディスカッションの様子。オープンな空気感で、常に活発な議論が交わされている

なるほど!まさしくリアルというか、日々の生活の中の「こうだったらいいのに」が見えてくるポイントですね!

吉武:本当に良い視点ときっかけがもらえたなと。そこからがまあまあ大変だったんですけど……。仮説を立てて、社内やグループ会社のメンバー、つながりのある企業の方々など40〜50人にヒアリングして。どういう人が “不”を抱えているのか、潜在的に抱えている悩みは何なのかをリサーチしながら、アイデアをブラッシュアップしていきました。

前田:例えば初期段階では、「自分の声が外に漏れないこと」を大きなコンセプトとして掲げていたのですが、実際にヒアリングしてみると、「自席でオンライン会議をする際に隣の人の声が自分のマイクに入ってしまう」、「在宅時に子どもの声が入るので会議で気を遣う」、「公共交通機関ではオンライン会議ができるブースもあるけど、環境音が気になって結局やらないことが多い」など、周囲の音に対する“不”も高いことが分かりました。

プロトタイプのDIYからスタート!迷路のような構造が特徴である音響メタマテリアルの採用がブレイクスルーに 

― プロダクトの企画はどのように進めたのですか。

吉武:まずは自分たちでプロトタイプを作り、本格的にプロジェクトがスタートしてからはグループ会社とタッグを組んで開発を進めました。完成まで何度も試行錯誤を重ねていくつものプロトタイプを作り、両社で議論しながら開発を進めてきました。

前田:ちなみに、最初は私ともう一人のプロジェクトメンバーで、ホームセンターで買ってきた色々な部材を組み合せてプロトタイプを作りました。完全にDIYです(笑)。

先ほどマーケティングを担っていると聞きましたが、ものづくりの知見もあったのでしょうか。

前田:私は学生時代に工学系の勉強をしていたのと、ichikara Labに参画する前はカメラの修理サービスを担当していたので、それらの経験が生かせた部分はあるかもしれません。

Privacy Talkのプロトタイプ(左)と完成品(右)

現在の形になるまでに何度も試行錯誤を重ねたとのことですが、こだわったポイントやブレイクスルーとなった出来事などはありますか。

前田:こだわった点でいうと通気性とデザインです。前者については、本体内部に換気用ファンを搭載することで空気を循環させ、快適なつけ心地を実現しています。あと、音声取得用マイクとは別にファン稼働音を取得するマイクも搭載しています。それがファンの稼働音を打ち消す処理をすることで、オンラインで会話する相手にファンの音を入れずに音声を届けることができます。デザインについては、オフィスやカフェなど外出先の環境に馴染むよう、できるだけ小型化することを目指しました。

ブレイクスルーということだとやはり音響メタマテリアル技術の採用ですね。この技術の採用で、人の声を効果的に吸収しながら、空気の通り道を確保できるようになりました。さらに、これによって商品化の面で最大の障壁だった小型化が実現できたことはPrivacy Talkの製品化にあたって非常に大きなポイントになりました。

  • Privacy Talkでは、迷路のような構造が特徴である音響メタマテリアルを搭載。独自にカスタマイズした音響メタマテリアルにより、人の声がもつ特定の周波数帯(1,000Hz~4,000Hz)の音を効果的に吸収しながら、呼吸のための空気の通り道を確保している

人々の行動変容や気持ちの変化を生み出す、体験価値創りを目指した挑戦

 ― Privacy Talkの今後の展開を教えてください。

前田:BtoC/BtoB問わずニューノーマル時代のコミュニケーションにおいて新たな顧客体験価値の創造に挑戦していきたいと思っています。そのためにまずは特に“不”が大きいと想定される領域において、現在、異業種企業との協業を行っています。その一つが「公共交通機関での移動中」における実証実験です。Privacy Talkを通じてビジネスパーソンの移動時間に新しい価値提供ができないかチャレンジしています。

吉武:もう一つは、「オフィス・コワーキングスペース」における実証実験です。リアル・オンライン両方のコミュニケーションが求められる中、多数の人が同じ空間にいるオフィスではPrivacy Talkを通じてどのような価値が提供できるのか、働き方改革やコミュニケーション促進の可能性も含めて検証しています。

― とてもユニークな取り組みですね!他社との協業を積極的に実施されているのはなぜなのでしょうか。

吉武:私たちが提案したいのは、Privacy Talkというプロダクト自体の価値だけではありません。Privacy Talkによって人々の行動の変化、気持ちの変化が生まれるところまでを実現するのが価値創出だと考えています。そのような大きなインパクトは、やはり1社だけで生み出せるものではありません。ですので、異業種の皆さんと共創しながら未来のコミュニケーションの在り方を作っていきたいと思っています。

今後の展開が楽しみです!最後に、Privacy Talkにかけるお二人の想いを教えてください。

前田:Privacy Talkは用紙1枚に書かれたアイデアの段階から技術的な領域まで深く携わってきたので、思い入れのあるプロダクトです。一人でも多くの方に届いてほしいという気持ちはもちろんありますが、「こんなに仕事が楽になった」「こんなことができるようになった」など、少しでも多くの方の生活を豊かにする、そんなプロダクトに育てていきたいと思っています。

吉武:Privacy Talkは、例えば家の中でストレスを抱えながら仕事をしていた人がそこから解放されたり、移動することの意味を捉え直したりと、その人の生活や気持ちを大きく変える可能性があるプロダクトだと思っています。モノ自体の価値だけでなく、そのような体験価値を創出し、世の中に伝えていけるように、チャレンジを続けていきます。

社会がどのように変わっていくか、今から楽しみですね。本日はありがとうございました!


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