西東京データセンター
C-magazine 2022年春号記事
2022年3月1日
キヤノンマーケティングジャパン(以下、キヤノンMJ)グループであるキヤノンITソリューションズ(以下、キヤノンITS)は、西東京データセンターを2012年10月に稼働開始し、20年10月には2号棟を新設。金融機関をはじめとする多くの企業からの信頼を獲得している。このデータセンターを今後のITサービス事業の中核と位置付けるその狙いやキヤノンMJグループならではの付加価値、SDGsや地球環境保護に根差した取り組みへの思いを聞いた。
コロナ禍で二桁成長を継続、データセンター事業に注力
国内には約600サイトのデータセンターが稼働しているといわれ、現在も新設が続いている。
背景にあるのはクラウドサービスの利用拡大だ。特にここ数年は、コロナ禍を背景に企業の事業継続対策の強化やリモートワークの急速な普及、市場におけるECの活況など、データセンターに対する需要は拡大している。
グローバルにサービス展開するメガクラウド事業者に対して大規模なデータセンター設備をフロア単位などでまとめて貸し出す、コロケーションサービスのニーズも伸びている。
IT専門調査会社IDC Japanの調査によれば、国内データセンターサービス市場は、3年後の2025年に向けても年間平均10%以上の高い成長率が維持される見込みとなっている。
そうした中、キヤノンMJグループは「西東京データセンター」と「沖縄データセンター」という2つのデータセンターを中核に、各種データセンターサービスやクラウドサービス、システム運用サービスなどのストック型ITサービス事業の強化を続けている。
キヤノンITソリューションズで西東京データセンターの事業所長を務める小泉 充はこう話す。
「西東京データセンターでは、12年から稼働を開始している1号棟に加え、20年10月に1号棟とほぼ同等の延べ床面積に約1.25倍のラック収容能力、約1.7倍の受電能力を実現した2号棟を新設しました。これらの最新設備を活用し、お客さまに対して既存のデータセンターサービスの枠にとどまらないキヤノンITSならではの高付加価値サービスを提供するとともに、メガクラウド事業者から寄せられるコロケーションサービスのニーズにも応えていきます」
高い成長率が続く国内データセンターサービス市場
IDC Japanの調査結果によると、2021年の国内データセンターサービス市場規模は、前年比11.6%増の1兆7,341億円。今後もクラウドサービス市場の拡大を軸に、高い成長率が続くと予測している。
出典:IDC Japan/「国内データセンターサービス市場予測、2021年~2025年」より作成
西東京データセンターの強み「立地」と「ファシリティ」
西東京データセンターとは、具体的にどんな特長をもった施設なのだろうか。まず注目すべきは「立地」である。西東京データセンターの施設管理を担当する中澤誠志はこう語る。
「西東京データセンターは、都心から20km圏内の近距離にある都市近郊型データセンターで、都心との間に大規模河川がないことから、災害時にもアクセスが容易です。また、西東京データセンターが立地する武蔵野台地中央部は地盤が極めて強固で、地震をはじめとする災害に関する東京都の調査でも最も危険度が低いエリアだと評価されています」
加えて西東京データセンターの安全性を高めているのが堅牢な「ファシリティ」で、国内データセンターでは最高水準となる「ティア4」レベルの耐震・制震・免震設備を備えている。
連携する2つのデータセンターで万全なBCPを実現
データセンター事業の中核となるのが「西東京データセンター」と「沖縄データセンター」の2拠点。都心から20km圏内の都市近郊型データセンターの「西東京データセンター」と、首都圏から約1,600km離れ、DRに最適な「沖縄データセンター」との連携により、あらゆる災害対策を想定した万全なBCPの実現を目指している。
あらゆる事態に備える高性能ファシリティ
西東京データセンターを利用するお客さまの重要なIT資産を守るため、国内最高クラスの耐震性能や柔軟性を考慮した引込回線など、データセンターファシリティスタンダードで最高ランクのティア4レベルの高性能ファシリティで、地震、停電、浸水、被災、通信障害などあらゆる事態に備えている。
SDGsへの取り組みで世界からも注目される
もっとも、都心からのアクセスの良さや堅牢性をアピールする都市近郊型データセンターは、現在ではそれほど珍しくない。西東京データセンターが時代をリードするデータセンターとして高く評価されているポイントは、SDGs(持続可能な開発目標)や地球環境保護に対する積極的な取り組みにもある。
実際に西東京データセンター1号棟は21年3月、東京都環境局より地球温暖化対策の推進体制が特に優れた事業所として評価され、「優良特定地球温暖化対策事業所」(準トップレベル事業所)に認定された。
エネルギー効率に優れた設備や冬季の外気温が低い期間に熱源機器を稼働させずに冷水をつくる「フリークーリング」の導入、熱源機器などのエネルギー分析を実施することでより高効率な設備運用を実現する「BEMS(ビルエネルギー管理システム)」の活用に取り組むほか、事業部門とサステナビリティ推進部門、ビル管理業務などを委託している協力会社が合同で毎月開催している「CO2削減推進会議」は特に高い評価を獲得した項目だ。
西東京データセンターの運営管理の責任者である小林信一は、同センターの取り組みについて次のように語る。
「データセンター内の電力負荷の変化にあわせて改善すべき点を確認し、サーバルーム内の空調機の運転周波数や冷却水の温度の最適化、冬季の外気利用による熱源運用、館内温度設定の緩和、啓発活動など、CO2削減に少しでも役立つことがあれば全員が一致団結して実施しています」
こうした日々の地道な改善の積み重ねが東京都から認められたのである。
21年11月には、世界銀行が主催するオンラインイベントにて、キヤノンITSは都内の全事業者を代表して「東京都のキャップ・アンド・トレード制度※に対する民間企業の対応」と題する講演を実施。西東京データセンターにおけるSDGsや地球環境保護への取り組みは、いまや世界からも注目されている。
西東京データセンターを利用するお客さまからの問い合わせ窓口を務めている田口智大は、ニーズの変化についてこう語る。
「最近では『このデータセンターでは再生可能エネルギーをどれくらいの割合で使っているのか』といったお問い合わせを受けることが増えています。地球環境保護に対するお客さまの意識は確実に高まっています。その意味でも今後、サステナビリティに対する貢献度がデータセンターの選定基準となることが予想され、キヤノンITSとしても現状に満足することなく、西東京データセンターの地球環境保護への取り組みを強化していきます」
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温室効果ガスであるCO2の排出量取引制度の一つで、企業に排出枠(キャップ)を設け、その排出枠の余剰分や不足分を取引(トレード)する制度。「国内排出量取引制度」とも呼ばれる
電力消費量の削減に向けたさまざまな取り組み
西東京データセンターでは電力消費量の削減に向けた取り組みも継続している。例えばサーバルーム用の空調は、サーバの負荷に応じて稼働する空調機を自動調整する。また、冬季には冷たい外気を利用することで空調機の負荷を減らす。いずれも有人による微調整も行っている。
データセンターとしてのSDGsへの貢献
企業の取り組みに注目が集まるSDGsに関しても、「信頼・安全性の高いITインフラと付加価値の高いITソリューションをいつでも・誰でも使える社会を目指すこと」「IoTやクラウドなどのデジタルサービスを提供し、持続可能なデータ活用基盤をお客さまと共創すること」を掲げて活動を続けている。
キヤノンITSならではの付加価値を提供
データセンターの価値は、ファシリティの高いスペックだけでは評価できない。西東京データセンターは24時間365日、止められないシステムの安全な稼働環境を守るため、DR(災害復旧)やBCP(業務継続計画)の強化という観点から運営品質の向上に特に力を入れている。
前述した西東京データセンターの立地の優位性や、堅牢なファシリティを最大限に生かしつつ、障害を未然に防ぐ「防災」や、障害の拡大を防いで速やかに復旧を図る「減災」に注力。日々の監視や設備の点検に当たっている。
データセンター設備の障害や自然災害の発生を想定した定期訓練は、顧客への通報・報告を含め年間300件以上実施している。そうした監視や点検、訓練の集大成として毎年1回行っているのが「総合連動点検」だ。
「データセンターが停電状態に陥った際に、UPS(無停電電源装置)や自家発電設備からの給電にスムーズに切り替わり、お客さまのサーバやIT機器が問題なく稼働し続けるかの確認を行います」と中澤誠志。続けて田口が、「金融や外資系などミッションクリティカル※な業務を運用しているお客さまからは、万一の緊急事態でもシステムが止まらないことの実証が、契約においても求められており、われわれの使命としてこの『総合連動点検』を行っています」と語る。
こうした日々の運営品質向上の取り組みにより、西東京データセンターは、データセンターの運営品質を客観的に評価するグローバル基準である「M&O認証」を国内2社目として取得している。
西東京データセンターの付加価値として、キヤノンITSならではのシステム構築や運用・保守といったサービスも挙げられる。ハウジングなどのデータセンターサービスでは、通常ラック内に設置しているIT機器の運用は全て顧客側の責任範囲となるが、西東京データセンターでは、これらIT機器をサポートする柔軟な運用サービスを提供しているのだ。
西東京データセンターでオペレーションに携わる中澤 哲が、SEサービスを充実させる背景について説明する。
「キヤノンMJグループのお客さまの中には、ITの専任者がいない企業も少なくありません。そうしたお客さまは、システムの導入・構築から運用、保守までワンストップで任せたいと望んでいます。そのような期待に応え、IT担当者の代わりに課題を解決する、プラスアルファの提案ができることがわれわれの強みです」
特に近年大きな課題となっているのが、悪質化・巧妙化するサイバー攻撃や不正アクセスなどへのセキュリティ対策だ。
従来のファイアウォールやアンチウィルスを中心としたセキュリティ対策だけでは万全とはいえない。さまざまな機器からログを取得してセキュリティ脅威の監視や分析を行うSOC(Security Operation Center)の設置が求められているが、広範囲に及ぶセキュリティの専門知識が必要になるSOCの運用を、全ての企業が自社で行えるわけではない。
キヤノンITSはそうした企業のニーズに応えるため、SOCサービス「UTMセキュリティ運用支援サービス」を21年12月に発表した。データセンターサービス本部の本部長を務める郡田江一郎は、こうした新サービスの展開も踏まえつつ、今後について次のように話す。
「西東京データセンターを利用するお客さまに対してSOCサービスも提供することで、一気通貫なソリューションの提案が可能になりました。データセンター事業は、キヤノンMJグループのITサービス事業における柱となるものです。そのために今後も重点的な投資領域となっています。システム開発やキヤノンITSが提供するクラウドサービス『SOLTAGE』とのシナジーも発揮しながら、より使い勝手が良く、安心・安全を約束する高品質なソリューションを拡充していきます」
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組織や事業の構成要素の必要性の度合いを表すIT用語の一つ。業務の遂行に必要不可欠で障害や誤作動などが許されないこと
安心して利用できる万全のセキュリティ環境
ICカードと生体認証による本人確認、X線手荷物検査、3Dボディスキャナー、ローターゲート、監視カメラ、24時間有人監視室など、万全のセキュリティでお客さまが安心して利用できる環境を提供している。
災害・障害発生を想定した定期訓練を実施
防災や減災のため、データセンター設備の障害や自然災害の発生時を想定した訓練を毎週実施。訓練シナリオ総数は300以上に及ぶ。毎年1回行っている大規模な「総合連動点検」では、災害や事故により発生する停電を想定し、電力会社からの給電停止時に発電機給電への切り替えが自動で行われることを確認している。
ワンストップで企業のITシステムを支えるSEサービス
西東京データセンターでは、ハウジングやコロケーションといった一般的なデータセンターサービスに加え、キヤノンITSのクラウドサービス「SOLTAGE」や、外部クラウドサービスと組み合わせたマルチクラウド環境などのインフラ基盤、NOC(Network Operation Center)やSOCサービスを提供。システム構築から運用・保守まで、ワンストップで企業のITシステムを支える。
「VR見学会」の開始で見学社数が倍増
西東京データセンターの利用を検討している企業が、より簡単にその設備を体感できるような取り組みも進めている。それが「VR見学会」。その名のとおり高度なVR(仮想現実)技術を活用し、自宅や自社のオフィスにいながら西東京データセンターの施設見学を疑似体験できるというものだ。
西東京データセンターの広報・マーケティングを担当する岩山知紗は、次のように話す。
「コロナ禍で開催が困難になった現地見学会をカバーするために準備を進め、2号棟のオープンにあわせてサービスを開始しました。『自宅にいながらでも臨場感のある360度映像で設備を体感できる』とお客さまからは非常に好評で、21年の見学社数は前年から倍増しました」
郡田も「VR見学会」への想定以上の反響に驚いている。
「単に感染拡大防止の観点から現地見学会を避けたいとお考えのお客さまだけでなく、遠方であることや検討初期段階であることを理由に見学のお申込みをためらっていたお客さまからも問い合わせが急増しており、提案機会の拡大に大きく貢献しています」
今後は「VR見学会」をニューノーマルに対応した顧客体験の場として位置付け、さらなる機能拡充とともに沖縄データセンターへの展開も図っていく考えだ。
キヤノンMJグループが注力するデータセンター事業。その目指す先について、小泉はこう語る。
「データの格納および活用を支えるデータセンターは、いまや重要な社会インフラになりました。西東京データセンターでは、そのあるべき姿をファシリティと日々の絶え間ないオペレーションの両面から追求し、企業活動だけでなく社会生活をも支えていきます」
自宅や自社のオフィスにいながら設備を体感できる「VR見学会」
より簡単に設備を体感できるように、西東京データセンターの施設見学を疑似体験できる「VR見学会」を実施。臨場感のある360度映像で設備を体感できるだけでなく、リアルでは不可能な視点から施設や設備が見られる。
日々の運営品質の改善と環境対応の継続によりさまざまなグローバル基準の公的認証を取得
西東京データセンターは、高品質なデータセンターの証となる下記に挙げるグローバル基準の認証を取得、その維持に努めている。
「M&O認証」は、米国の民間団体「Uptime Institute」が定めるデータセンターの運営品質を満たしているかどうかを客観的に評価したもので、西東京データセンターは国内2社目としてこの認証を取得した。
国際標準化機構(ISO)が定める「ISO/IEC 20000」や「ISO 22301」といった認証も取得済みだ。前者はITサービスマネジメントシステムに関する国際規格で、提供するITサービスの継続的な管理や高い効率性、継続的改善を実現する能力を示す。
後者は事業継続マネジメントシステムに関する国際規格で、地震・洪水・台風などの自然災害をはじめ、システムトラブル・感染症の流行・停電・火災といった事業継続に対する潜在的な脅威に備えた対策の包括的な枠組みを備えていることを示す。さらに米国公認会計士協会(AICPA)が定めたグローバル基準の信頼性を保証する「SOC2 Type1保証報告書」を受領。環境マネジメントシステム「ISO 14001」、ISMS適合性評価制度「ISO/IEC 27001」の認証を取得し、クレジットカード業界の情報セキュリティ基準「PCI DSS」にも準拠している。東京都環境局より受けた「優良特定地球温暖化対策事業所」(準トップレベル事業所)の認定は特筆すべきポイントだ。
西東京データセンター【 Nishi-Tokyo Data Center 】
キヤノンMJグループのキヤノンITSが運営する都市近郊型データセンター。自然災害の影響を受けにくい武蔵野台地に立地し、ティア4レベルの高性能ファシリティ、世界基準の運営品質を証明するM&O認証取得、充実したSEサービスが評価され、金融業、製造業、クラウド事業者など数多くの企業に利用されている。2012年に稼働を開始した1号棟に加え、2020年10月にはほぼ同等の延べ床面積に約1.25倍のラック収容能力、約1.7倍の受電能力を実現した2号棟をオープン。ストレージエリア、BCPオフィス、共有エリアなどのオフィススペースも設け、お客さまのより幅広いニーズに対応する。