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「EOS R7」&「EOS R10」

C-magazine 2022年秋号記事
2022年9月1日

キャンプブームの高まりや旅行需要の回復などが徐々に見え始め、余暇をより楽しむためにレンズ交換式カメラを手に取る人が増えている。そうした市場の変化の中、キヤノンは新たなミラーレスカメラ2機種を発売した。これまで35ミリフルサイズCMOSセンサーを搭載したカメラがラインアップされてきた「EOS R」シリーズに、初めてAPS-CサイズCMOSセンサーを搭載したモデルが加わった。異なる個性を持つ2機種の登場はキヤノンにとってどのような意味を持つのだろうか。

勢いを取り戻しつつあるレンズ交換式カメラ市場

キヤノンマーケティングジャパン カメラ統括本部でレンズ交換式カメラの市場導入を担当する原 浩朗

「新型コロナウイルス感染拡大の影響も続く中、新しいことに挑戦したいという前向きなマインドが広がっていると感じます。そんなチャレンジの一つとして、レンズ交換式カメラを手にする方が増えていると考えています」

キヤノンマーケティングジャパン(以下、キヤノンMJ)でカメラのマーケティングを担当する原浩朗は、日々感じる変化への手応えをこう話す。需要回復の背景には技術的な進化があると話すのは、同じくキヤノンMJの和田康一だ。

「レンズ交換式カメラ市場におけるミラーレスカメラの比率は、この数年で大きく高まりました。キヤノンも『EOS R3』や『EOS R5』など、新たな撮影体験を提供するカメラを世に送り出し、好評を得ています。カメラに対するニーズにも変化があります。特に動画撮影機能に対するニーズは強く、SNSへの投稿や動画配信などを始めた人が、スマートフォンからのステップアップとしてレンズ交換式カメラを求めるようになっています」

キヤノンの「EOS Rシステム」は、こうした市場の大きな変化の中心にある。

「EOS Rシステム」がもたらしたカメラの進化

キヤノンマーケティングジャパン カメラ統括本部でレンズ交換式カメラの市場導入を担当する和田康一

「EOS Rシステム」は、2022年に誕生35周年を迎えた「EOS」のコンセプトである「快速・快適・高画質」を継承しながら、これまでにない映像表現を可能にするキヤノンのイメージングシステムだ。18年の登場から4年がたち、多くの個性的なカメラとレンズがラインアップされてきていると、原は話す。

「『EOS R』シリーズでは、これまで35ミリフルサイズCMOSセンサーを搭載した機種を充実させてきました。全方面にバランスの取れた『EOS R』を皮切りに、視線入力に代表されるエポックメイキングなAF機能を搭載した『EOS R3』、高解像度ならではの表現ができる『EOS R5』、高感度撮影にも強みを発揮する『EOS R6』。初めて35ミリフルサイズカメラに触れる方に最適な『EOS RP』に加え、天体撮影に特化した『EOS Ra』や動画撮影向けの『EOS R5 C』といった機種など、幅広くラインアップしています」

そして22年夏、「EOS R7」「EOS R10」の2機種が新たに加わった。

2018年の登場以来ラインアップを増やしてきた「EOS R」シリーズ

「快速・快適・高画質」というコンセプトを持つ「EOS」シリーズは、2022年に誕生35周年を迎えた。一眼レフの「EOS」シリーズ、初心者でも気軽に使える「EOS M」シリーズに加え、静止画、動画を問わずこれまでにない映像表現を可能にする新たなイメージングシステムとして18年には「EOS Rシステム」が登場。「EOS R」を皮切りに、19年発売の「EOS RP」、20年発売の「EOS R5」「EOS R6」、21年発売の「EOS R3」とラインアップを増やしてきた。22年には、新たにAPS-CサイズCMOSセンサーを搭載した「EOS R7」「EOS R10」の2機種が加わった。

EOS R7 & EOS R10 【 イオス アールセブン&イオス アールテン 】

ミラーレスカメラ「EOS R」シリーズ初のAPS-CサイズCMOSセンサーを搭載した2機種。「EOS R7」は、新開発の有効画素数最大約3250万画素※1APS-CサイズCMOSセンサーと映像エンジン「DIGIC X」により、APS-CサイズCMOSセンサー搭載の「EOS」史上最高解像性能※2を実現したミラーレスカメラ。「EOS R3」のAF技術を継承する被写体検出機能、世界最高レベル8.0段※3の手ブレ補正効果、メカシャッター/電子先幕での撮影において「EOS R」シリーズ最速※4の高速連続撮影が特長。「EOS R10」は小型・軽量が特長で有効画素数最大約2420万画素※1のAPS-CサイズCMOSセンサーを搭載。高性能な被写体検出機能を生かした高速連続動画撮影や、高画質な4K動画撮影を実現。多様な映像を手軽に撮影できる。

  • ※1
    「RFレンズ」「EFレンズ」使用時。使用するレンズまたは画像処理により、有効画素が減少することがある
  • ※2
    2022年5月23日現在発売済みのAPS-C EOSにおいて。ISO12233準拠のCIPA解像度チャートでの評価
  • ※3
    2022年5月23日現在発売済みのレンズ交換式デジタルカメラにおいて。「EOS R3」「EOS R5」「EOS R6」も同じ8.0段の手ブレ補正効果段数(キヤノン調べ)。「RF24-105mm F4 L IS USM」装着時、f=105mm Yaw/Pitch方向、CIPA規格準拠。購入時期によりレンズのファームウエアの更新が必要
  • ※4
    2022年5月23日現在発売済みの「EOS R」シリーズにおいて。「EOS R7」と「EOS R10」は同じ最高約15コマ/秒

登場したAPS-CサイズCMOSセンサー搭載機

「EOS R7」と「EOS R10」の商品企画を担当したキヤノンの横山美奈

和田と原が「『EOS R』シリーズ全体がより魅力的な存在になる」と口をそろえて話すこの2機種は、どんなカメラなのか。共通する特長は、「EOS R」シリーズで初めてAPS-CサイズCMOSセンサーを採用した点にある。キヤノンでカメラの商品企画を担当する横山美奈は、その背景に「APS-Cサイズカメラを望む強い声」があったと話す。

「APS-Cサイズカメラは発売されるのかという期待の声は、私たちにも届いていました。特に、一眼レフの『EOS 7D』シリーズなど、APS-Cサイズカメラの強みをよく知るファンの方々から多くの声をいただきました」

35ミリフルサイズCMOSセンサーと比べてひと回り小さなセンサーを使うAPS-Cサイズカメラは、「小型・軽量」で「望遠効果」が得られ、さらにコストパフォーマンスが高いカメラを生み出せる。

「そうした特長に『EOS Rシステム』ならではの最新技術を加えれば、どこへでも気軽に持ち出せて、今まで以上に動きの速い一瞬を逃さず捉えられる。最高の撮影体験を可能にする、これまでにないカメラができるはず。そんな期待を寄せてくれる方が多かったのです」

そうした期待に応えるべく生まれたのが、「EOS R7」と「EOS R10」なのだ。

APS-CサイズCMOSセンサーを搭載するカメラの特長

CMOSセンサーのサイズにはいくつかの規格があり、APS-CサイズCMOSセンサーは35ミリフルサイズCMOSセンサーよりも小さな規格になる。35ミリフルサイズカメラは高感度や広角レンズでの撮影、ボケの表現で有利なのに対し、APS-Cサイズカメラは小型・軽量でコストパフォーマンスが高いことが特長。また、同じ焦点距離のレンズでも35ミリフルサイズカメラより被写体を大きく写せる望遠効果が得られる。

高速・高画質を実現したAPS-Cハイエンドモデル「EOS R7」

「EOS R7」は約3250万画素の新開発APS-CサイズCMOSセンサーを搭載した「EOS Rシステム」のAPS-Cハイエンドモデル。動体撮影など幅広いシーンに対応する高速連写・高精度AF、レンズ内ISとボディー内ISの協調制御による最大8.0段の手ブレ補正効果などで高速・高画質を実現。サブ電子ダイヤルと使用頻度の高いマルチコントローラーを融合させて最小限の動きで操作できるようにするなど、高い操作性も備えている。

小型・軽量ボディーに高い性能を凝縮した「EOS R10」

小型・軽量と本格的な静止画・動画撮影を両立した「EOS R10」は、「EOS R」シリーズ最軽量の約429g(CIPAガイドライン)を実現。高速連写・高精度AF、新開発のCMOSセンサーと映像エンジン「DIGIC X」が実現する高画質、多様な撮影シーンに対応する動画性能で、ハイアマチュアからエントリーユーザーまで、幅広い撮影ニーズに対応する。

※バッテリー、カードを含む

「EOS R」シリーズ最速の高速連続撮影を実現

「EOS R7」と「EOS R10」の開発チーフを務めたキヤノンの犬飼宏明

両モデルに共通するシャッター幕を物理的に動かすメカシャッター利用時の「最高約15コマ/秒」は、「EOS R」シリーズ最速だ。キヤノンで開発チーフを務めた犬飼宏明は、高速連続撮影がさまざまな機能の連携で実現したと説明する。

「15コマ/秒を実現するには、約0.07秒の間にピントを合わせて露出を決め、その上でシャッターを切ってデータを処理し、次の撮影に備える必要があります。『EOS R7』の場合は、同時にボディー内手ブレ補正機構も動作させます。それぞれが確実に連携して初めて実現するのが高速連続撮影なのです」

ポイントになるのは両モデルに共通して搭載された最先端のAFシステム「EOS iTR AF X」だ。


「EOS R10」に搭載されたAPS-CサイズCMOSセンサー開発に携わったキヤノンの渡邉忍

「『EOS R7』と『EOS R10』が搭載するAFシステムは、高速で高精度、広範囲にAFを利用できるだけでなく、高い被写体検出性能とトラッキング(追尾)機能により、『人物』、犬・猫・鳥などの『動物』、モータースポーツの車やバイクなどの『乗り物』を見つけ出し、被写体を的確に捉え続けます。『人物』は瞳・顔・頭部・胴体、『動物』は瞳・顔・全身、『乗り物』はドライバーやライダーのヘルメット・車両全体といったように、被写体のさまざまな部位を検出することで最適なAFエリア選択が可能です。この機能があるからこそ、高速連続撮影中もピントを合わせ続けることができるのです」

ただし、高度なAFシステムの搭載は決して「簡単ではなかった」という。

「搭載する新開発のセンサーは、どちらも『EOS R』シリーズ初のAPS-Cサイズです。従来機種とはサイズが異なるため、AFシステムをそのまま移植すれば利用できるわけではありません。シミュレーションして設計した上で、最後は実写でトライアンドエラーを繰り返して仕上げました」

ミラーレスカメラではCMOSセンサーは撮像だけでなく、今ではAFでも重要な役割を担っているため、撮像とAFの性能を両立させることが必要だったと、センサーの開発を担当した渡邉忍は話す。

「撮像とAF両方にとって効率良く光を取り込めるように、マイクロレンズと呼ばれるCMOSセンサーの画素ごとに配置される小さな集光レンズを含めた光学的な設計を追求しました。さらに、CMOSセンサーから画素の信号を読み出す過程においても、信号出力を工夫して撮像とAFの両立を実現しています」

APS-CサイズCMOSセンサーは35ミリフルサイズCMOSセンサーと比べてサイズが小さく、受け取る光の量が少ないため、一般的には暗所撮影で不利になるが、その点においても妥協はない。

「『EOS R7』と『EOS R10』ともに新開発センサーで光学性能を向上させただけでなく、最新の映像エンジンである『DIGIC X』を採用しています。ノイズの抑制や階調表現・解像感の向上といった高度な画像処理を行うことで、両モデルとも静止画撮影時に常用ISO感度は100~3万2000を達成しています。屋内スポーツや夜間の動物撮影などでもその力を発揮します」

  • 推奨露光指数。動画撮影時の常用ISO感度はISO100~12800(最高ISO25600相当の感度拡張が可能)。「Canon Log 3」設定時は常用ISO感度、拡張ISO感度が異なる

高速連続撮影 & 高精度AFシステム

「EOS R7」と「EOS R10」は共に、メカシャッター/電子先幕での撮影において「EOS R」シリーズ最速の最高約15コマ/秒※1の高速連続撮影を実現。さらに電子シャッター※2での撮影では、「EOS R7」は最高約30コマ/秒※1、「EOS R10」は最高約23コマ/秒のAF/AE追従による高速連続撮影が可能。さらに、高精度な被写体検出と被写体追尾性能を実現する「EOS iTR※3 AF X」によりカメラが被写体の特徴を検出し、トラッキング(追尾)。人物、動物(犬・猫・鳥)、乗り物(モータースポーツにおける車・バイク)※4の検出に対応し、優れた追従性能を発揮し、被写体を捉え続ける。

  • ※1
    連続撮影速度は、被写体/撮影条件、カメラ設定や使用するバッテリーの種類や状態、使用レンズなどにより低下することがある
  • ※2
    被写体や撮影条件によって、ローリングシャッター歪みが発生することがある。電子シャッター時にはストロボは使用不可
  • ※3
    iTR :Intelligent tracking and recognition
  • ※4
    被写体によっては動物検出、乗り物検出できないことがある

動画撮影機能に見る、2機種それぞれの個性

「EOS R7」と「EOS R10」は近年の動画撮影に対するニーズの高まりを受けて高度な動画撮影機能を搭載しているが、それぞれ想定するユーザーや利用シーンは異なると犬飼は説明する。

「『EOS R7』はプロフェッショナルの利用も想定した機能を搭載しています。7Kオーバーサンプリングプロセッシングでの4K収録や、グレーディング(映像加工処理)を前提とした動画収録方式『Canon Log 3』での撮影に対応しています。強力なAFや手ブレ補正機構も利用できますから、普段はシネマカメラを利用しているような方々にも満足していただけると思います」

対して「EOS R10」が重視するのは手軽さや軽快さだ。

「『EOS R10』も6Kオーバーサンプリングプロセッシングでの4K収録に対応していますし、高いAF性能や動画電子ISによる手ブレ補正機構も搭載しています。ただし、こちらは難しい操作を覚えなくても、動画撮影ボタンを押せばすぐにクオリティーの高い動画が撮影できるため、幅広いお客さまに楽しんでいただけると考えています」

どこにでも持って行くことができ、いつでも気軽に使えるカメラながら、上位機種に引けを取らない撮影体験を提供する。これこそが「EOS R10」の本質だ。

  • CMOSセンサーからのRGBの信号それぞれから高解像度の画像を生成した後、4Kにリサイズすることで、色再現性とディテール描写に優れ、モアレやジャギーを低減した高画質な動画を記録する機能

多様なニーズと条件で選べる4K動画モード

近年は高精度な映像表現が可能な動画撮影機能に対するニーズも高い。「EOS R7」は「4K UHD Fine」「4K UHD※1」「4K UHDクロップ※1」の3種類、「EOS R10」は「4K UHD」「4K UHDクロップ」の2種類の4K動画モードを採用。動画撮影時の被写体検出やトラッキング(追尾)の性能も従来機種より大幅に向上している。「EOS R7」では「ボディー内IS(image stabilization/手ブレ補正機構)」「動画電子IS※2」「レンズ内IS※3」の協調制御※4、「EOS R10」では「動画電子IS」「レンズ内IS」の協調制御※4により、効果的な手ブレ補正も実現している。

  • ※1
    4K UHD(クロップなし)は画像処理により4K(UHD)解像度での出力。4K UHD(クロップなし)と4K UHDクロップではカメラの設定や被写体によって解像感やローリングシャッター歪みが変わる
  • ※2
    動画電子IS使用時は撮影範囲が狭くなる
  • ※3
    ダイナミックISを搭載するレンズを装着時は、特に広角側の補正範囲が広がり、動画撮影時の補正効果がプラスされる
  • ※4
    「EOS R7」はボディー内IS協調制御に対応した「RFレンズ」を装着時、「EOS R10」は手ブレ補正機構を持つ「RFレンズ」を装着時

それぞれのユーザーへ最適な販売戦略を立てる

「EOS R7」と「EOS R10」は、ともにAPS-CサイズCMOSセンサーを搭載したカメラとして共通する機能も多いが、性格は大きく異なる。キヤノンMJの和田は、それぞれに異なるマーケティング戦略を立てたと話す。

「これまで多くの支持を得てきた『7』という数字を冠した『EOS R7』については、ハイエンドなAPS-Cサイズカメラを待ち望んできたユーザーに対し、しっかりと機能や性能を伝えていきます」

一方「EOS R10」では別の訴求方法を考えているという。

「『EOS R10』は、エントリー向けである一方で、上級者にも満足いただけるカメラです。カメラに詳しい人、そうでない人、レンズ交換式カメラを使ったことのある人、初めて手にする人。その誰もが自分なりに使えるカメラであることを伝えていきたいと思っています」

そこで注目しているのが「カメラを2番目の趣味にしている人」だと原は話す。

「例えばキャンプや車、バイクといった、今の自分の趣味をより綺麗な写真、よりかっこいい動画で撮影して、YouTubeやTikTokなどのSNSで発信したいと考えている方々に、簡単にクオリティーの高い写真や動画が撮影できる『EOS R10』はピタリとハマります。カメラを手にした人が自分なりの使い方を見つけ出し、趣味の時間をより楽しく過ごす。そんな様子を拡散していくことで、『EOS R10』の世界を広げていきます」

「EOS R7」と「EOS R10」はそれぞれの個性を生かし、新たな撮影体験を提供する。多様性を表現できる「EOS Rシステム」は、これからも映像表現の可能性を強力に切り拓いていくだろう。

新開発「RF-Sレンズ」の登場と「EOS Rシステム」の特長

「EOS R7」「EOS R10」の発売に合わせ、新開発のAPS-CサイズCMOSセンサーを搭載したカメラ用「RF-Sレンズ」として、「RF-S18-150mm F3.5-6.3 IS STM」「RF-S18-45mm F4.5-6.3 IS STM」が登場。小型・軽量で高画質・高機能を実現するだけでなく「EOS R」シリーズの35ミリフルサイズカメラにも利用できる。「EOS Rシステム」は「RFレンズ」「RF-Sレンズ」に加え、マウントアダプターによって「EFレンズ」「EF-Sレンズ」の利用も可能なため、レンズとカメラの多様かつ柔軟な活用を実現している。