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最近の「新入社員研修」って、どんなことをしているの? 〜キヤノンMJの場合

2024年1月17日

皆さんは、「新入社員研修」を受けたことがありますか? 名刺交換の練習をしたり、先輩に仕事の基本を学んだりと、まさに社会人のファーストステップ。でも、他社はもちろん自社でさえ、今どんな新入社員研修をしているのか、知る機会は少ないのではないでしょうか。時代の変化が急速に進む中で、新入社員研修はどのように進化しているのでしょう?

そこで、今回はキヤノンマーケティングジャパン(以下、キヤノンMJ)の新入社員研修を探ってみたいと思います。実は、「ユニークなプログラムを行っている」と社内でもちょっとした噂になっているようです。一体どんな研修が行われているのか、新入社員研修を統括するグループ人材開発センターの佐伯若奈さんと高畑広志さんに話を聞きました。

学生から社会人への移行をスムーズに。「軸」を見つけ、大きな“段差”を乗り越える

ー さっそくですが、キヤノンMJの新入社員研修について教えてください。まずは、どんな考え方でプログラムを組んでいるのですか。

キヤノンマーケティングジャパン グループ人材開発センター
佐伯若奈
キヤノンマーケティングジャパン グループ人材開発センター 佐伯若奈

佐伯:重視しているのは、「学生から社会人へのトランジション(移行)」です。このタイミングは、新入社員にとって大きな“段差”を乗り越える時。生活環境も変わりますし、求められることも変わるため、不安や挫折感を覚える人も多くいます。ですから、トランジションがスムーズに行えるようサポートしながら、「自分の軸」を見つけ、社会人として自信を持ってスタートを切ってもらえるようにすることを、大きなテーマとしています。

新入社員研修の期間は4~5月の2カ月間ですが、前半の4月は、そうしたヒューマンスキルを高める研修を中心に行います。

前半で、社会人へのトランジションの基礎を固めたら、後半の5月には、社会課題に向き合う、地域社会に貢献するといった「キヤノンMJの人になる」という自覚を育む段階へとシフトします。そこで「キヤノンMJ with SDGs研修」という研修を1カ月かけて行います。これは、フィールドワークを通じて社会課題と向き合い、その解決のためのITソリューションを考え社内提案まで行うというものです。

キヤノンマーケティングジャパン 新入社員研修(2023年)の流れ
キヤノンマーケティングジャパン 新入社員研修(2023年)の流れ

― 社会人としての最初の一歩から、社会課題を理解するための実践的な体験まで行うんですね。前半は自分の軸を見つける「自己理解」や「自信」など、マインドを特に重視しているのが印象的です。

佐伯:新入社員研修では、「自分の軸を明確にすること」が何より大切と考えています。これから社会で仕事をしていくと、壁にぶつかったり、精神的に打ちのめされたりすることが、少なからずあります。そんなときでも、「自分はこれを大事にしている」「これがあるから大丈夫」というような“ブレない軸”を持っている人は、必ず立ち直れる。もちろんビジネススキルやマナーは大事ですし、学ぶ時間も設けているのですが、それ以前に、ゆるぎない価値観や自信を身に付けてほしいと考えています。

そして、「こうありたい」という軸が明確になれば、自発的に学び続ける意欲が生まれます。そんなゴールを設定し、逆算して設計したのが一連のプログラムになります。

キヤノンマーケティングジャパン グループ人材開発センター
高畑広志
キヤノンマーケティングジャパン グループ人材開発センター高畑広志

高畑:例えば、「自分の軸」を見つける研修の一つとして、「自分史ジャーニー」と名づけた研修があります。これまでの人生で頑張ってきたことや、人に褒められたこと、成功したことなどを振り返るものです。振り返って挙げ出した内容はチームで共有し合い、お互いに「こういう点がいいね」と良いと感じた点を伝え合います。自己肯定感が高まるだけではなく、同期のパーソナリティーを知り、さまざまな考えを持つ人がいることを実感できます。

佐伯:私は2018年に総務・人事本部へ配属されたのですが、その頃は「社会人としての自覚」を促すことに主眼が置かれた一律教育がメインでした。それで成長する社員ももちろんいるのですが、中には「同期がみんな優秀で劣等感を感じている」「この先、社会人としてやっていく自信がない」といった不安や悩みを抱えている人も多く、「一人ひとりの感情にちゃんと寄り添いたい」と考えたのです。それまではIT本部でマーケティング業務を担当していたのですが、マーケティングには顧客の思考や感情に寄り添って施策を検討する「カスタマージャーニー」という考え方があります。その手法を応用し、研修全体のプログラムを新入社員の思考に寄り添えるような内容に設計しました。

また細かなケアとして、研修期間中、その日に感じたことを毎日自由に書いてもらう「コミュニケーションノート」の交換も行いました。コメントを書き込んでやりとりすることで、一人ひとりの心の変化に気づき、いち早く不安の芽を摘み取る手を打つためです。

― 従来の一律教育を、一人ひとりに時間を割く教育に変革したのは、大変だったのではないですか。

佐伯:大変でした!(笑) でも、新卒採用という大切な機会に、せっかくキヤノンMJを選んでくれた新入社員たちには、存分に力を発揮してもらいたい。そのために必要なサポートを自分の責任でやりきる覚悟で進めました。

社会課題を体感し、ITによる解決策の提案まで行う「キヤノンMJ with SDGs研修」

― 研修後半は、「キヤノンMJ with SDGs研修」を行うのですね。新入社員研修の半分にあたる1カ月をかけるなんて、かなり気合いの入った研修ですね。

高畑:はい。キヤノンMJグループは、「社会・お客さまの課題をICTと人の力で解決するプロフェッショナルな企業グループ」を2025年ビジョンに据えており、その実現には人材の成長が不可欠です。新入社員のうちから、さまざまな社会課題に触れ、リアルな課題の抽出と解決策の構想を実体験してほしいと考えました。

― 具体的にはどういった内容なのですか?

高畑:ロジカルシンキングやチームビルディング、会計・財務などのビジネススキルを座学で学んだ後、フィールドワークで実際に社会課題を体験。そして課題解決のための具体的な提案をグループで検討し、社長を含めた経営層にプレゼンテーションまで行うという内容になります。課題抽出からソリューション提案までを一通り体験するのです。

佐伯:フィールドワークは、NPOや地域の方などにご協力いただきながら、さまざまな地域で行っています。

2023年は、片瀬海岸東浜(神奈川県)や荒川流域(東京都)、また富士山(山梨県・静岡県)に赴き、各所で活動するNPOの方に、ゴミ問題の原因や影響を伺った後、実際に各所でゴミ拾いを行いました。

― 一人一カ所ではなく、全員がすべての土地に行くのですか?

佐伯:はい。山、川、海、それぞれの課題は個別にあるのではなく、さまざまな社会課題が要因として複雑に絡んでいます。そうしたつながりを感じてもらうのが大切だと考え、全員で各所に行きました。

「キヤノンMJ with SDGs研修」フィールドワークの様子。拾ったゴミは計600㎏にものぼった
キヤノンマーケティングジャパン 新入社員研修 「キヤノンMJ with SDGs研修」

また宿泊研修として、山梨県小菅村(こすげむら)も訪ねました。小菅村は、深刻な過疎高齢化が進む中、地方創生プロジェクトを機に観光客を5年間で約8万人から約18万人へと2倍以上にした実績を持ち、全国から地方創生の成功モデルとして注目されています。空き家を利用した宿泊事業、積極的なベンチャー誘致、ドローン配送など、さまざまな取り組みが行われている現場を体感して、「社会課題×ビジネス」のヒントを学びました。

山梨県小菅村での宿泊研修の様子
キヤノンマーケティングジャパン 新入社員研修 「キヤノンMJ with SDGs研修」

― 現場に足を運んだからこそ、分かることは多いですね。

高畑:はい。その後は、本格的に課題解決に向けたITソリューションの提案準備に入ります。解決したい課題をそれぞれプレゼンし、近い課題を挙げた人同士でチームを組みました。全23チームに分かれ、課題の設定、新規提案する商品・サービスの説明、顧客ターゲット、競合調査、具体的な収益モデルなど、これまでのビジネススキル研修で学んだことを活用して提案をまとめていきました。ソーシャルビジネスを手掛ける企業の代表の方がメンター役として参加してくださっており、「なぜ、それに取り組むの?」「それ、本当にキヤノンMJがやる意味があるの?」など、鋭い指摘を受けているグループもありました。

予選で選抜された8チームが、社長や事業部長ら審査員の前で最終発表を行いました。かなり緊張したと思うのですが、どのチームも7分の持ち時間ピッタリにプレゼンを終えていたのが印象的でしたね。

この研修を通じて「ボランティア」や「寄附」という手段だけでなく、「社会課題の解決は事業を通じて成しえる」というマインドを育ててほしいと考えています。

「自ら成長を続ける」ことをサポートすることで、価値創造の好循環をつくる

キヤノンマーケティングジャパン 新入社員研修

― なぜ、これほど新入社員研修に力を入れているのでしょうか?

佐伯:キヤノンMJグループは、社員「個人」の自律的成長や専門性向上が「組織」を活性化させ、お客さまの満足を生み出し、さらにそれが社員の働きがい・意欲につながり、さらなる成長を促すという好循環を「エンゲージメント向上ループ」と定め、人材戦略の柱に据えています。

このループの中でカギとなるのが「人材の高度化」。端的に表現すれば「新たな知識や専門性を高める知識を、自らどんどん取り入れていける人材」となることです。

そうした人材に必要なベースとなる要素であり、キヤノングループ企業DNAである「進取の気性(前例にとらわれず、新しい価値を追求し続ける)」は、やはり新入社員のうちに身に付けてもらいたい。入社後も常に成長を目指す向上心を養ってもらうために、手厚い新入社員研修を行っています。

キヤノンマーケティングジャパン エンゲージメント向上ループ

― 新入社員研修は、「自ら成長できる人」となる基礎を培う時間なのですね。

佐伯:はい。やはり、会社の成長は人の成長です。お客さまを取り巻く環境の多様化・複雑化に伴い、キヤノンMJグループの社員に必要なスキルや知識、能力も変化しています。人が成長し続けることで、提供できる価値も高まっていく。

新入社員研修は、まだ小さな体験ではありますが、「自分が成長することが、社会課題の解決につながるんだ」ということを感じて、常に進化し続けるマインドを育む場としてほしいですね。私も「皆それぞれが、できる人なんだ」ということを伝えて、新入社員の自信を育てていきたい。この仕事にとてもやりがいを感じています。

高畑:2カ月と短い期間ではありますが、新入社員たちは濃い時間をともに過ごした仲間のような存在であり、彼らの配属後の成長を知ることも私たちの大きな喜びです。数年後に大きなプロジェクトの中心で活躍している姿や、「尊敬する先輩」として後輩から名前が挙げられているのを聞くと、自分のことのようにうれしいです。これからも、さまざまな形で社員の成長をサポートしていきたいですし、そのためには自分自身も成長し続けなければと考えています。

―今日はありがとうございました。


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