キヤノンが車の未来を変える?!
キヤノンITSの「車載ソリューション」でモビリティのこれからを支える
2024年2月5日
最近の車ってすごく変わりましたよね!EVの急速な普及だったり、車とクラウドがつながったり、もちろん自動運転への取り組みも。そんな自動車産業は今、「100年に1度の大変革期」といわれているのだとか。そして、意外にもそこにはキヤノンマーケティングジャパングループが関わっているんです!
そこで、自動車産業に長年取り組んでいるキヤノンITソリューションズ(以下、キヤノンITS)のオートモーティブシステム開発本部の藤畠 伸さんと田地 晶さんに、キヤノンITSが車とどのような関わりを持ち、どんなことにチャレンジしてモビリティの発展に寄与しているのか、お話を聞いてきました。
100年に1度の大変革期!今、“自動車”ってどうなっているの?
― 今の車は10、20年くらい前とはだいぶ変わった印象ですよね! 最近の車の変化や近年の自動車産業の実際について教えてください。
田地:今の車は「先端テクノロジーの塊」といえるほど、実は、大量のソフトウエアによって支えられています。
走る、曲がる、止まるといった基本的な動作をはじめ、安全性や利便性の向上、環境負荷の低減など、車のさまざまな機能を実現するために、「組込みソフトウエア」の技術をベースにした「車載システム」が大きな役割を果たしています。
― ソフトウエア? 車の中身ってそんなことになっているんですね。スマートフォンみたいだ……。
田地:自動車産業自体、100年に1度の変革期にあるといわれるほどの大変革が起きています。変革の4つの側面を表す「CASE」というキーワードも一般化してきて耳にしたことがある方も多いと思います。
具体的には「Connected(コネクティッド)」、「Autonomous/Automated(自動運転/自動化)」、「Shared & Services(シェアード&サービス)」、「Electric(電動化)」の4つの領域で技術革新が急速に進み、車の概念自体が大きく変わりつつあるのです。この状況はそれぞれの頭文字をとって「CASE(ケース)」と呼ばれています。
― 100年に1度……いきなりセンセーショナルな雰囲気ですね!
田地:そんな大変革に伴って、車載システム領域の変化も急速に進み、車載システムの役割はますます重要になっています。例えば、「Connected(コネクティッド)」とは、車が単体で存在するのではなく、外部のさまざまなサービスやアプリケーションとつながるようになっているということです。他の3つは、自動運転、シェアカー、EVなど、皆さんにも馴染みのものかと思います。
自動車というとメカ的なハードウエアとしての印象が強いかと思いますが、この4つの領域での進歩はソフトウエアによるところが大きいです。そういうこともあり、車の中の構造自体がより複雑になっていますし、今の車づくりには、従来の技術だけでなくクラウドをはじめとしたIT分野の知見や技術も欠かせなくなってきています。
実は旅客機よりも多い? 今の自動車づくりに欠かせないソフトウエア
― 「先端テクノロジーの塊」という話でしたが、車載システムは車1台にどのくらい入っているんですか?
田地:ECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)ということでいえば、1台あたり100以上搭載されている車種も少なくありません。
― そんなにあるんですか!?
田地:昔は数個程度でしたが、車の変化が進むにつれてどんどん増えていきました。今やソフトウエアのプログラムのコード行数は1億行を超えることもあり、あの大きな旅客機よりも多いなんて話もあります。
藤畠:車の自動車制御部分だけでなく、カーナビゲーションなどの車の外部(アウトカー)に接続する情報系システムにも最先端のソフトウエアが使われているんです。これらをまとめて「車載システム」と呼びますが、われわれキヤノンITSはそこに携わっているということになります。
― なるほど。ここまでのお話を聞いていて、車のこと、実はぜんぜん知らなかったんだなと驚いています……! というか、1台の車をつくるのがどんどん大変になっていませんか……?
田地:そうなんです。今後EV化や自動化が進むにつれてECUやセンサーの数はますます増大し、車に占めるソフトウエアの付加価値比率もさらに高まることが予測されています。それに伴って、以前から車載システム開発の負荷増大は大きな課題とされていました。必要なソフトウエアが加速度的に増加している状況で、各メーカーが車種ごとにイチから開発するのは非効率で、本来注力するべきことに十分なリソースを割けなくなってしまっては本末転倒です。
そこで、その課題を解決すべく、欧州の自動車メーカーとサプライヤーを中心に始まったのが、車載ソフトウエアプラットフォームの共通規格「AUTOSAR(オートザー)」の策定と仕様公開です。これによって、共通化されたソフトウエアの再利用ができるようになり、車載システム開発の効率化が図れるようになりました。
日本では、2015年に国産のプラットフォームを開発することを目的に名古屋大学発ベンチャーのAPTJ株式会社が設立されました。APTJには複数の企業から技術者が参画し、AUTOSAR仕様準拠のソフトウエアプラットフォーム開発を行いました。当社も立ち上げ時から出資して開発に携わりました。
現在は、APTJでの経験を生かし、自動車メーカーやサプライヤーの車載システム開発において、AUTOSAR SPF(ソフトウエアプラットフォーム)の導入支援から、インテグレーション、および、アプリケーション開発まで、トータルで車載ソリューションを提供しています。
「組込みソフトウエア」の経験を生かし、1980年代から自動車産業の知見を蓄積
― 正直、「キヤノンが車をつくっている」というのは意外なのですが、そもそも、キヤノンITSが車載システム事業に取り組み始めたのはいつ頃からですか?
藤畠:車を直接つくっているわけではありませんが(笑)。そうですね。実は車載システム事業の歴史は1980年代まで遡ります。
― 随分長く歴史があるんですね! 車載システム領域に参入した経緯を教えてください。
藤畠:もともとは、キヤノンのハンディターミナルの技術を生かし、ECUの状態を診断する故障診断ソフトウエアの開発を手掛けたのが、車載事業の始まりです。当社はキヤノン製品をはじめとする各種製品開発の支援を長年行っており、そこで培ってきた組込みソフトウエア開発の経験を生かし、カーナビゲーションやブレーキ、車載カメラ、ハイブリッド車のエンジン制御など、さまざまな車載ソフトウエアの開発を行ってきました。さらに、システム要件や開発プロセスの支援、機能安全支援など、開発の上流段階にも事業を展開してきました。
― ちなみに、「組込みソフトウエア」とは具体的にはどのようなものを指すのでしょうか。
藤畠:例えば冷蔵庫でも温度管理やライト点灯の制御をしているのは組込みソフトウエアです。日常的に私たちがよく使っているものの中にソフトウエア制御のものがたくさんあります。
組み込みソフトウエアとは、「特定用途に向けて特化した機能」を実行するソフトウエアとなります。汎用性の高いパソコンで動作するソフトウエアとは異なり、用途に最適化されたハードウエアを制御するため、高い信頼性と高速性が求められるものです。
― そうなんですね。車載システムにおけるキヤノンITSの強みはどんなところにありますか?
田地:先ほど述べたAUTOSARのノウハウに加えて、組込みソフトウエア開発で培ってきた開発プロセスにおける品質管理も強みの一つだといえます。
特に車の開発は非常に厳格な品質管理が求められ、車載システムも「Automotive SPICE」※1や機能安全といった業界標準の規格により、厳しい品質レベルが定められています。それに沿った開発プロセスをいち早く整備できたのは、さまざまな分野での知見がもともとキヤノンにはあったからだと思います。
藤畠:それと同時に、新しい開発手法の構築も積極的に進めています。例えば、コスト削減や効率化、人的ミス防止が期待できるモデルベース開発(Model Based Development=MBD)※2を数年前から導入しています。
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※1
車載ソフトウエアの開発プロセスに関するフレームワークを定めた、業界標準のプロセスアセスメントモデル
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※2
シミュレーション技術を活用した開発手法を指す。システムがシミュレーター上で可視化され、さまざまな状況においてどのような挙動をするか実際に見て検証することができる
― 世の中の変化に合わせて、新しい技術や開発手法にもチャレンジしているのですね。
藤畠:当社は車載システムのソフトウエアやネットワークの標準化を目指す一般社団法人JASPARにも会員として参画し、自動車メーカーやサプライヤー、研究機関などの技術者と連携しながら、車載システムや情報セキュリティにおける標準化を推進しています。このように、他社と協力しながら自動車産業の発展に貢献することも大切な活動だと考えています。
少し脱線しますが、車に乗られている方はお分かりかと思うのですが、何か不具合があった場合にディーラーに持ち込んだとして、多くの場合その日の内に戻ってくるのではないかと思います。それこそ先ほどの冷蔵庫などではそうはいきませんよね。それだけ車というものはメンテナンスのタイムラインが短い。事前に車からディーラーに車体の情報を送っておいて、実際に持ち込まれた段階では修理に必要な部品がすでにそろっているというサービス構想もあります。
こうしたサービスの進歩や、車を起点とした皆さまの体験の向上という面でも、われわれの取り組みの意義を感じています。
"共創"を通じて、業界全体の発展に寄与していきたい
― 最後に、今後のビジョンやチャレンジしたいことを教えてください。
田地:われわれはソフトウエア開発を通じて車のどの部品にも携われるという強みがありますが、やはり各メーカーによって特性が異なるため、より多くの開発に携わりながら知見や経験を蓄積し、開発力の底上げを図っていきたいです。そして車載ソリューションの提供価値を高め、社会課題解決の一翼を担いたいと考えています。
藤畠:近年、車の複雑性がどんどん高まっていくにつれて、一つの企業だけで全ての課題を解決するのは難しくなってきているという実感があります。例えば、当社が診断通信に関する豊富なノウハウを持っていたとしても、それを活用した新しいサービスを考えるとなると、他社も含めたさまざまな技術と組み合せないと実現できないかもしれません。
今後は、色々な強みを持った企業と共創し、手を取り合うことで、より大きなことを実現できるようになるのではないかと思っています。自社のビジネスを発展させることはもちろん重要ですが、それだけでなく業界全体の発展にも寄与できるような価値創造を実現していきたいですね。