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よく使っているそのシステム、実はローコード開発でつくられているかも?キヤノンITSの担当者に聞いてみた

2024年2月22日

ローコード開発やノーコード開発。最近耳にする機会が増えた、という方も多いはず。特別なプログラミングスキルがなくても、短期間でアプリケーション開発、システム構築などを実現できる開発手法のことです

「ローコードで開発されたアプリケーションは、実はいろいろなところで使われています」と話すのは、ローコード開発プラットフォーム「WebPerformer」と「WebPerformer-NX」を提供するキヤノンITソリューションズ(以下、キヤノンITS)、デジタルビジネス営業本部の市川 尚宏さんと岡田 知さん。

ローコード開発が活躍するフィールドは、勤怠管理システムや生産管理システムなど企業の業務システム全般にわたるそうです。私たちが日常的に利用する業務システムやWEBサービス、その舞台裏に迫ります。

ローコード開発が活躍するフィールド

ローコード開発やノーコード開発といわれても、「開発の人たちの話でしょ?」って思っていたのですが……。最近は身近でも、ローコードで開発という言葉を聞くようになりました。実際のところ、どうなのでしょうか?

キヤノンITソリューションズ デジタルビジネス営業本部 岡田 知(左)、市川 尚宏(右)

岡田:ケースは増えたと思います。例えば、仕事では何らかのシステムを必ず利用しますよね。勤怠管理といったバックオフィスで皆が利用するシステムもあれば、生産管理といった担当する業務のシステムなど、多くのアプリケーション開発やシステム構築などの現場で使われています。

市川:業界・業種も問わず、保険会社や農協、メーカー、飲食ブランド、化学系企業など、多くの企業で利用されていますよ。

なるほど。「ローコードで開発されたアプリケーションは、いろいろなところで使われている」のが現状なのですね。あらためてお聞きしたいのですが、ローコード開発・ノーコード開発とは、どのような開発手法ですか?

岡田:アプリケーションを動かすためのプログラムが書かれたデータを「コード」といいます。ローコード開発は、コードを書く作業に代わり、直感的に操作手順がイメージしやすい開発用のエディタなどを利用し、コードを書く作業を省力化する手法のことです。一方、ノーコード開発は、コードを書く必要がなく、より省力化された手法になります。

それぞれの特徴も教えてください。

岡田:ローコードは、ある程度のプログラミングスキルが必要で、それなりに複雑なシステムの実装も可能であり、細かな要件にも対応可能です。ノーコードは、プログラミングを行う必要がなく簡単にシステムを実装できますが、業務要件に合わせた独自のカスタマイズや体裁の変更は大きく制限されます。

― 最近ではこうした開発ツールのテレビCMも流れているようですね。

市川:だんだんと世間にも浸透してきていると感じます。ただ、実は、ローコード自体は以前からある開発手法なんです。

まずその源流として、キヤノンITSは1980年代にはすでにCOBOL(プログラム言語の一種)のプログラミングを簡単にするためのツール「CANO-AID」を提供し、ソースコードを一から書くのではなく効率的に開発していくニーズに応えていました。そして、2005年にリリースしたローコード開発プラットフォーム「WebPerformer」は、すでに1400社以上(2023年11月現在)の企業に導入されています。

岡田:私たちは、この分野では草分け的存在といえるのかもしれません。キヤノンITSはさまざまな企業が合流してできた企業なので、製造・流通や金融業界など幅広い業種のお客さまとお付き合いがあります。お客さまのさまざまな業種・業務に対して、長年培ってきたローコード開発の知見を生かすことで、これからもお役に立ち続けたいと考えています。

ちなみに、昔は「超高速開発」と呼ばれていました。ローコード開発の方がかっこいいですね(笑)。

その背景には、開発者が足りないという現実が

― 思ったよりも以前から多くの企業が活用していたんですね! ローコード開発自体は新しいものではないとのことですが、では、なぜ今注目を集めているのでしょうか?

岡田:私たちが日常的に使っているさまざまなアプリケーションの開発や、DXの加速などに伴い、IT人材の需要は増え続けています。その一方で、2030年には41〜79万人の不足が生じるという経済産業省の試算もあるように、IT人材の不足は深刻な状況です。限られたリソースでやりくりするためにも、開発効率の向上は必須になります。

― IT人材の不足は、日本が抱える社会課題ともいわれています。

岡田:はい。ローコード開発は、コードを一から書く必要のあるスクラッチ開発に比べて、省力化できるだけでなく、スクラッチほどのプログラミングスキルを求められません。結果として、開発業務自体の敷居を下げ、開発者の母数を増やすことができます。

市川:つまり、「開発業務の敷居を下げてリソースの確保を図り、開発効率を高めながらきちんとした成果物をつくることができる」ということです。これが注目されている大きな理由でしょう。

― それは、経産省のレポートによって指摘された「2025年の崖」にも関わってきますね。

市川:その通りです。必然的に、日本が抱える「2025年の崖」の解決策としても期待されています。

スマートフォンで利用するシステムや社内の決裁システムなど多岐にわたる、ローコード開発の利便性

― ローコード開発がどのようなものか、どうして注目されているのかがわかりました。では、ローコードは、どのようなケースに向いているのでしょうか?

岡田:自社の業務に合わせて使うことができるのがローコード開発です。WebPerformerを例にとると、企業規模や事業領域を問わずに多くの企業で導入され、開発の規模も、数日〜数週間でつくれる簡単なものから、半年以上かかってつくられる大規模なシステムまで大小さまざまです。内容は先述の通り、勤怠管理システム、生産管理システムなど多岐にわたります。私たちキヤノンMJグループでも、グループ内で使われている社内研修サイトのシステム構築などに利用しています。

― 具体的な活用事例をいくつか教えてください。

岡田:そうですね、例えば、10万種類の商品を5000店に配荷するある企業では、配荷する商品の入力や参照といった管理画面をローコードで開発しています。さらに、課題だったスマートフォンで利用するシステムもローコードで開発するようになりました。これにより、開発にかかる時間が4分の1に短縮できただけでなく、開発経験のない社員でも開発に携わることができるようになり、事業変革のスピードが加速したと聞いています。

また、ある製薬会社では、それまで属人的だった開発業務を標準化する仕組みをローコードで開発。属人性を排除でき、特定の開発者への依存がなくなったということです。

市川:多くの企業では、コア業務ではパッケージの基幹システムを導入して運用していますが、どの企業にも必ず、その基幹システムだけでは対応が難しい業務があります。そこを、ローコード開発で対応している企業は多いと思います。基幹システムと、ローコードで開発した仕組みを連携させながらDXを進めている企業もあります。

― 記憶に新しいところでは、コロナ禍によるDXの加速がありますね。

岡田:コロナ禍においては、例えば、リモートワーク推進での利用があります。感染動向の見通しが立たないなかで急務だった業務プロセスのオンライン化を、ローコード開発によって短期間で対応した企業も珍しくないでしょう。

それまで出社が必須だった決済プロセスのオンライン化もそうです。実際に、WebPerformerを活用して構築したシステムにより、コロナ禍で無理に出社しなくてもよくなったという喜びの声をいただきました。

― 使われ方はさまざまですね。

岡田:そうですね。内製開発に限らず、SI事業を行う企業がWebPerformerを導入して、顧客のシステム開発に使っているケースも少なくありません。そう考えると、ローコードでかなりの数のアプリケーションがつくられ、皆さんの業務効率化などに役立っているのではないでしょうか。

開発スピードのニーズに応えるWebPerformer-NX

― キヤノンITSが提供しているローコード開発プラットフォームには、以前から提供されているオンプレミス型のWebPerformerと、2023年にリリースされたクラウド版のWebPerformer-NXの2種類がありますね。

岡田:WebPerformerは、ExcelやVisual Basic、Accessで構築したアプリケーション、基幹システム周辺の開発など、オンプレミス型向けや社内業務向けを得意としたローコード開発プラットフォームで、いわば、DXにおける「守りのDX」を支援します。

2023年にリリースしたWebPerformer-NXは、WebPerformerと得意とする分野が異なります。得意なのは、顧客接点となるアプリケーションなどビジネスの変化に応じて素早い構築が求められるフロント側の開発です。

インターフェースに求められる操作性やデザイン性の高さに対応できる部品がそろっていて、かつ、クラウド型のため、つくったアプリケーションを社内外に共有して広く使いたいなどの要望にも応えられます。「攻めのDX」を支援できるといえるでしょう。

WebPerformer-NXでのサイト開発のイメージ。シンプルで扱いやすい操作性が特徴

― WebPerformer-NXには、どのような活用事例があるのでしょうか。

岡田:キヤノンMJグループでは、BPO事業においてWebPerformer-NXを利用しています。この事業ではお客さまのビジネスプロセスを代行運用しており、ビジネストレンドに合わせて、システムを迅速に開発したり修正したりする必要があります。WebPerformer-NXで、よりスムーズにその要望に応じることができています。

  • BPO:「ビジネス・プロセス・アウトソーシング」の略。会社の業務を外部委託すること

― WebPerformer-NXは、開発に必要な環境もクラウド上に用意していると伺いました。

市川:はい。DXでは「遅れ」が企業の競争力低下につながります。逆に、ここを先んじることができれば、差別化のポイントにもなるはずです。その点で、WebPerformer-NXはWebブラウザがあればすぐに開発に着手でき、環境を自分たちで用意する必要はありません。

また、開発者の本音は「サーバーを準備したりテスト環境を用意したりすることに時間を取られたくない」ところにあります。すぐに開発業務に取り掛かれることは、開発者のモチベーションにもつながるのではないでしょうか。

IT部門の価値向上や社会課題の解決に寄与していきたい

― WebPerformer、そしてWebPerformer-NXとそろったところで、今後の展望をお聞かせください。

市川:2005年のWebPerfomerリリース以来、私たちは、ローコード開発を通じてお客さまの業務課題に応えてきました。2023年にWebPerformer-NXが加わり、さらにサポートできる範囲が広がりました。

岡田:ある企業からは、「ローコードを導入して開発の速度がアップした。その結果、社内からさまざまな相談を受けるようになった」というITご担当者の声をいただきました。これまでは、システム開発は時間がかかるから相談しても難しいだろうと、社員の皆さんがIT部門に相談すること自体を諦めていたようです。つまり、ローコード開発によって、IT部門の価値が向上したといえるのではないでしょうか。

― IT部門だけでなく、全社的にもプラスの効果といえますね。

市川:そうですね。私も、この話を聞いた時は本当にうれしかったです。ローコード開発により、社内での価値が向上したり、コストセンターからプロフィットセンターへの転換につながったりするIT部門が増え、それがお客さま企業の成長につながるよう、これからも全力でサポートしていきます。

― 草分け的存在でもあり、ローコードをけん引する立場からはどうでしょうか?

岡田:社会全体の技術者を増やしていくという面においても、役割を果たしていきたいと考えています。具体的には認定制度を創設・推進していて、WebPerformerの場合、認定を受けた開発者が今、約1200人います。WebPerformer-NXも既に認定制度をスタートし、WebPerformer同様にスキルの底上げを図っていきます。

市川:さらに、ローコード開発そのものの活性化にも取り組んでいます。2013年に設立された「ローコード開発コミュニティ」では、キヤノンITSは幹事企業として、参加競合他社と一緒に、ローコードの裾野を広げるべく勉強会などを開催しています。

― 分野全体を盛り上げていくと、頼もしい言葉が聞けました。

岡田:「2025年の崖」やIT人材の不足などは、業界や企業・団体にかかわらず日本の社会課題ともいえます。キヤノンITSは、WebPerformerやWebPerformer-NXの提供にとどまらず、ローコード開発市場の活性化にも取り組むことで、社会課題や顧客ニーズに応えるアプリケーション開発、DX推進の加速に寄与していきたいですね。

キヤノンITSが提供するローコード開発プラットフォームはこちら


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