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キヤノンMJが道路橋老朽化の危機を救う?「インスペクションEYE for インフラ」が目指す次世代の点検業務とは

2024年12月3日

こんなところにキヤノンMJ

道路、橋、トンネルなど、私たちの暮らしを支えているインフラ構造物。実は、今インフラ構造物の「老朽化」が社会問題になっていることをご存じですか?

インフラ構造物の安全性を保つためには定期的かつ適切なメンテナンスが必要……。しかし、点検作業は手間やコストがかかるだけでなく、専門的な知識も必要であることから、業界は人手不足、資金不足に悩まされています。

そんな中、課題解決への一歩を踏み出すカギとなるのが、キヤノンマーケティングジャパン(以下、キヤノンMJ)の画像ベースインフラ構造物点検サービス「インスペクション EYE for インフラ」。コンクリートの状態を撮影した画像を基に、AIがひび割れなどを自動検知するというもので、点検作業の高度化、効率化が期待できるといいます。具体的にはどのような仕組みになっているのでしょうか。そして、サービスに携わる人々が目指す社会のあり方とは。キヤノンMJ NVS企画本部の森川 泰久さんと武田 知樹さんに聞いてみました。

10年後、日本全国の道路橋の半数以上が耐用年数超過?加速するインフラ構造物の「老朽化」

インフラ構造物の老朽化が社会問題になっていると聞いたのですが、具体的にどんな問題が起きているのでしょうか?

森川:1950年代から1970年代までの高度経済成長期に、日本では次々とインフラ構造物が建設されました。2023年のデータを見ると、全国に道路橋が約73万橋、トンネルが約1万1千本あります。そして、そのうち道路橋は約39%、トンネルは約27%が、建設から50年以上経過しており、さらに10年後には前者が約63%、後者が約42%に達するという試算※1もあります。

キヤノンマーケティングジャパン NVS企画本部 武田 知樹(左)、森川 泰久(右)

そんなにあるんですね……!

森川:そうなんです。一般的に鉄筋コンクリート構造物の耐久年数は50~60年程度と言われているので、インフラ構造物の老朽化による重大事故の発生リスクは高まっています。また、壊れた後に修理を行う「事後保全」は、壊れる前に直す「予防保全」よりもコストが高く、このままでは30年後のインフラ構造物の整備コストは現状の2.4倍、年間4.1兆円になると予測されています。そのため予防保全が重視されているのです。

武田:このような状況を踏まえて、2014年以降、国は社会インフラ構造物の点検強化に向けたルール整備に注力し、橋梁・トンネルに関しては5年に1回、近接目視による定期点検が義務化されました。

近接目視とは、具体的に何をすることなのでしょうか?

武田:近接目視とは、肉眼で対象物の変状などの状態を評価できる距離まで接近して目視を行うことを指します。インフラ構造物点検における近接目視の対象として代表的なものは、コンクリート表面の“ひび割れ”です。鉄筋コンクリートを利用した構造物は、内部の鉄筋に錆が生じることが劣化の一因となっています。錆はコンクリートの表面に生じたひび割れから水が浸透することで発生するので、水が通る幅のひび割れを見つけ出して補修・補強することが重要なのです。

そういうことなんですね。でも橋とかトンネルってけっこう大きいですよね。肉眼でチェックするのはなかなか大変な気が……。

武田:そのとおりです。ただでさえ少子高齢化による労働人口の不足が問題視される中、全国各地に何十万もある構造物を目視で点検するのは大変です。しかも、大きな橋などの場合は高所での作業となるため、危険を伴います。また、作業者のスキルによって、どうしても判定にばらつきが出てしまいます。加えて、近接目視を行った後に点検調書を作成する必要がありますが、ひび割れを一つずつ手描きでスケッチし位置や幅などの情報を記録する、というアナログな手法で行われているケースも多く、現場の作業者に負担がかかっています。

森川:国としてもそういった課題を解決するために、画像点検を許可する法改正を施行するなど、段階的に「次世代インフラ維持管理技術」と言われるDX化を推進しています。特に近年はデジタル庁がアナログ規制の見直し状況をダッシュボード※2で可視化するなど、規制緩和を後押しするような動きが活発化しています。

そうすると、国の後押しによって点検作業のDX化はだいぶ進んでいるのでしょうか?

森川:構造物の所有者によって異なるのが現状です。例えば、国交省や県・政令指定都市管轄の構造物は新しい技術活用を原則化していこうという方針で、一部では順調に進んでいます。一方、市町村などの地方自治体管轄はDX化以前に、そもそも構造物の数が多いため点検作業の実施が大変で、新しいことにチャレンジしたくても限られた時間の中ではできない、などといった現状があります。ただし、政府が推進し続けていることもあって、ここ数年で徐々にDX化を積極的に推進していかなければならないという課題意識自体は醸成されているように感じます。

武田:安心・安全な暮らしや持続可能な社会づくりを目指す上で、インフラ構造物点検のDX化は欠かせないポイントです。高速道路や鉄道を所有している民間企業も、新技術の活用に意欲的に取り組んでいる印象ですね。ただし、それでも点検を必要とする構造物は多数にのぼるので、限られた予算や人員の中でどこを優先的に補修すべきなのかを見極めることが重要です。

点検業務の効率化に貢献。キヤノンのノウハウを生かしたインフラ構造物点検サービス

そのような課題解決に向けて、どんな取り組みをしているのでしょうか?

森川:「キヤノンがインフラ構造物と関係あるの?」と思う人もいるかもしれませんが、建設コンサルタントとの共同研究を通じて、画像ベースインフラ構造物点検サービス「インスペクション EYE for インフラ」※3を開発し、2019年からインフラ構造物の点検事業に参入しています。

当サービスは、いわゆる「変状検知」といって、現場でお客さまが撮影したコンクリートの状態の画像を基に、AIを活用してひび割れなどの損傷(変状)を自動検知するものです。

武田:撮影した画像の中からAIがひび割れを見つけ出して色付けし、ひと目で分かるように可視化します。その際にひび割れを幅ごとに分類するため、補修対象となる太いひび割れがどの程度あるのかを簡単にチェックできるだけでなく、データ化することで過去画像との比較による経年劣化の具合も確認できるため、要因の分析や将来の予測が立てやすくなります。

撮影画像を基にした、AIによる変状検知結果のイメージ。変状部分が色付けされており、ひと目で分かるようになっている

まさに、アナログによる点検作業にかかっていた負担を軽減するようなサービスなんですね。ちなみに似たようなサービスも世の中にはあると思うのですが、「インスペクション EYE for インフラ」ならではの特徴や強みはありますか?

森川:カメラ開発等で長年培ってきた独自の画像解析技術や、それに適したAIを活用することで、より精度の高い判定を可能にしています。また、建設コンサルタントと共同で研究開発を進めたことで、土木技術者ならではの経験や技術に基づく精度の高いデータをAIの“学習”データとして使用したり、現場で必要とされる要素をヒアリングして機能に盛り込んだり、と、専門的な知見やノウハウを基に現場の作業者のことを考えたサービス設計を実現していることも大きな強みの一つです。

武田:それから、AIの判定精度を高めるためには、お客さま自身でできるだけ画質の良いクリアな画像を撮影していただくことが重要になります。そこで、機材や撮影環境などの問題で撮影が困難な場合には、撮影機材や、キヤノンが培ってきた撮影ノウハウをお客さまに提供することで、より精度の高い変状検知が可能になるようにサポートしています。

お客さまのニーズを踏まえ、コスト効率の高いクラウド版の提供を開始

実際に導入されたお客さまからの反応はいかがでしょうか?

森川:とあるお客さまのケースでは、当サービスの導入により、従来の点検業務フローと比較して作業時間を大きく削減できました。工数の削減に加えて、品質の標準化やデジタル化を実現したことで、個別検査や補修・補強の優先順位付け、抜本的な対策の検討などにご活用いただいております。

武田:地方自治体や民間企業など、さまざまなお客さまにご活用いただいておりますが、一方で新たなニーズも見えてきました。

どのようなニーズですか?

武田:お客さまからは、「短期間でよりスピーディーに導入ができ、かつコストも削減できるような形を検討してもらえないか」というお声をいただいておりました。こうした背景から新しく提供開始したのが、「インスペクション EYE for インフラ Cloud Edition」です。

森川:つまり、既存サービスのクラウド版ですね。お客さまご自身が撮影した画像をアップロードすることで、クラウド上でAIによる変状検知を行い、そのデータを基に点検調書の作成までできるサービスです。

短期間かつ低コストで導入でき、当社の技術者を介することもないため、お客さまのご都合に合わせていつでもスピーディーにご使用いただけます。また、お客さまの方で変状検知の基準設定などができるため、用途に沿って柔軟にご使用いただくことが可能です。

変状検知の設定を調整、というと具体的にどのような内容なのでしょうか?

武田:同じひび割れでも幅によって補修の優先度は変わるので、幅のサイズごとに色付けをしているんです。さらに、車道なのか鉄道なのか、その中でトンネルなのか橋なのかなど、対象物によって幅の規定が異なりますので、ケースに合わせて自由に幅のサイズを設定することが可能です。また、お客さまによっては短いひび割れは検知しなくてもいいというケースや、逆に短いひび割れも漏れなく検知してほしいというケースもあります。そういった検知度合いの設定も調整できるようになっています。

「インスペクション EYE for インフラ Cloud Edition」の変状検知結果の確認画面。ひび割れの幅のサイズごとに、色分けされている

なるほど、ニーズや用途に合わせてお客さま自身で、検知方法をカスタマイズできるということなんですね。

森川:事例でいうと、神奈川県で先進的なテクノロジーを活用した建築・土木構造物の調査事業を展開している株式会社ジャスト様にて、実際に「インスペクション EYE for インフラ Cloud Edition」を導入いただきました※4。点検業務において、より効果的・効率的な画像点検サービスを探されていたとのことで、当サービスに興味を持っていただいたのです。

定点から広範囲かつ高精細な撮影を行う「遠方自動撮影システム」と併せてご活用いただいたのですが、以前使用していたソフトでは、細かく位置を変えながら撮影を行い、画像処理を行う必要があったのに対し、当サービス導入後は定点からの撮影画像を基に自動でひび割れを検出できるので、業務の省人化・省力化につながったとのお声をいただいております

「インスペクション EYE for インフラ」の普及を通じて、安心・安全で持続可能な社会づくりに貢献したい

お二人がインフラ構造物点検サービスの開発・提供を通じて実現したいことや、そこに懸ける想いを教えてください。

武田:やはり日本全体で労働人口の減少が叫ばれる中でも、特に建築や土木の分野は人手不足の問題が深刻化している業界の一つだと思います。そのような課題に対して、私たちのサービスが普及すれば、少ないリソースでもより短時間で効率的に点検作業ができるようになります。また、そういう先進的な取り組みにチャレンジする姿勢を見せていくことで、若い人材を中心に本業界に興味を持ってくれる人々が増えるかもしれません。そういう意味でも、このサービスを日本全国に広げていくことには社会的意義があると感じています。

森川:インフラ構造物の老朽化問題は、もはや待ったなしの喫緊の課題です。全国各地で点検作業員が不足している現状や、あるいはインフラ構造物の状態が数値化・可視化されていないことで、本来まだ変える必要のない箇所まで建て直しになっているというケースもあるかもしれません。そういった中、より導入しやすいクラウド版も含めたわれわれのサービスを普及させることで、少しでも安心・安全で持続可能な社会づくりに貢献できるはず。そう信じて、まずは「インスペクションEYE for インフラ」の魅力を皆さんに広く知っていただけるように尽力していきたいと思っています。

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