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「人とつながれる場所は、必ず見つかる」吉藤オリィさんに聞く、孤独を解消する方法

2024年10月15日

切り拓くミライ

インターネットやテクノロジーが発達し、誰とでも簡単につながることができる現代。一方で「孤独」に悩む人も少なくありません。誰もがふとしたきっかけでとらわれるかもしれない孤独に、私たちはどのように向き合えば良いのでしょうか。

コミュニケーションロボットの開発や分身ロボットカフェの運営など、さまざまな活動を通して「人類の孤独を解消する」ことを目指す、株式会社オリィ研究所 代表取締役所長の吉藤オリィさんに話を聞きました。

「孤独の解消」を体現するカフェ

オリィ研究所 代表取締役所長 CVO 吉藤 オリィさん

吉藤さんにお話を伺った場所は、吉藤さんが代表を務めるオリィ研究所が運営する「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」。老若男女、そして海外から来た方も含め、幅広い層のお客さまでにぎわっています。

平日の日中にもかかわらず大盛況ですね。ここはどういったカフェなのですか。

吉藤オリィさん(以下、吉藤):分身ロボットによる接客を提供し、お客さまにそのコミュニケーションと、コーヒーやスイーツなどの飲食を楽しんでいただく“実験カフェ”です。

最近はロボットが接客を行うお店も増えていますが、私たちの分身ロボットはAIではありません。人が“パイロット”として遠隔で操作し、接客を行っています。パイロットを務めているのは、ALS(筋萎縮性側索硬化症)などの重度障がいがあったり、うつ病を患っていたり、介護や子育てなどさまざまな理由で、外出が困難な方々。そのような仲間たちと一緒に、テクノロジーを活用した、人々の新しい社会参加の形をつくる実験の一つとして、カフェ運営にチャレンジしています。

接客を行う分身ロボットたち。写真左が「OriHime」、写真右が、「OriHime-D」。どちらもカメラ・マイク・スピーカーが搭載されており、インターネット経由で操作できる。外出困難な人でも、分身テレワークによって働き、社会の中で役割を持つことができる

なるほど、単なるカフェではなく、社会実験の場でもあるのですね。

吉藤:はい。私たちは重度障がいがある人たちを「“寝たきり”の先輩」と呼んでいます。人は誰もが“寝たきり”になる可能性があります。そこまでいかずとも、老いとともに身体が動かなくなり、これまでのように働けなくなるときが訪れることは十分に考えられます。そのような未来が訪れたとき、孤独にならずに生きていくための、新しい働き方、社会とのつながり方を考えておくことが大切です。そう考えると、今、外出困難な方たちは、私たちの未来のロールモデルを示してくれる先輩であると捉えることができるのです。

そんな先輩たちと一緒に、新たな社会参加の形を公開実験しているのがこのカフェです。実験中なので失敗することもありますし、サービス内容もどんどん変わっていきます。もちろん、お客さまにはそこまで難しいことを考えずとも純粋に楽しんでいただけるようにしていますが、ふとご自身や家族の将来を考えたときに、「こういう働き方もあるかもしれない」とポジティブに感じていただくきっかけになれば良いなと思っています。

お客さまの反応はいかがですか。

吉藤:新しく開発したロボットを、すぐにこのカフェに取り入れて実験するので、お客さまの目の前でぐるぐる回ってしまったり、うまく動かなかったりすることもあります。でもありがたいことに、多くの方がそのような失敗も含め、エンターテインメントとして楽しんでくださいます。わが子を見守るかのように、成長を応援してくださる常連の方もいらっしゃいます。お客さまもパイロットもスタッフも、障がい者と健常者の区別なく、出会い、語り合い、楽しむことで、孤独の解消を体現するコミュニティーが生まれていると感じています。

生きることを諦めそうになるほどの孤独を味わった経験から、「孤独の解消」を目指す

吉藤さんは、「孤独の解消」を目指してさまざまな活動に取り組んでいらっしゃいますが、そもそもなぜ孤独と向き合おうと思ったのですか。

吉藤:私自身、小学校から中学校にかけた3年半の間、体調不良がきっかけで学校に通うことがほとんどできませんでした。人とのコミュニケーションが取れず、誰からも必要とされない。周りに迷惑ばかりかけている自分は、この世にいないほうが良いのではないかとまで考えるほど、孤独に追い込まれたのです。幸い、家族や親友、先生らのサポートによって学校に復帰することができましたが、工業高校で電動車いすの研究開発に携わる過程で、高齢者の多くが同じような孤独を抱えていることを知りました。自分のように、思うように外出できず、社会とのつながりをつくることが難しい方たちの想いを知り、「孤独の解消」に人生をささげたいと考えるようになりました。

どのようなアプローチで「孤独の解消」に取り組んできたのでしょうか。

吉藤:最初に取り組んだのは、人工知能ロボットの開発です。当時の私は人間とのコミュニケーションを諦めていたので、AIが友達になってくれれば孤独を解消できると考えました。でも、それは果たして「孤独ではない」といえるのか? と徐々に違和感を持つようになりました。そこで、次は、人と人をつなぐコミュニケーションロボットをつくろうと、大学生の頃にオリィ研究所を立ち上げ、分身ロボットの研究開発をスタートさせました。それ以来、「OriHime」の開発をはじめ、目や指先しか動かせないALSなどの患者がデジタル透明文字盤で意思を伝達できる「OriHime eye」の開発や、障がいがある方の人材紹介サービス「FLEMEE」の提供などを通じて、人々の新たな社会参加を支援し、孤独の解消に取り組み続けています。

さまざまな「孤独を解消する手段」があることを知ってほしい

現代の孤独にまつわる状況を、どのように捉えていますか。

吉藤:孤独って、「予防」が難しいんです。私もそうでしたが、やはり事前に考えることはなかなかできず、実際に孤独に陥る状況になって初めて問題に直面し、後悔するんですよね。高齢化が避けられない日本においては、障がい者に限らず、身体を動かせなくなった人や、通勤が困難になってしまった人の働き方を考える必要があると思うのですが、数年前はそのようなことを話してもあまり共感を得られませんでした。ただ、コロナ禍で人と人とのつながりや出会いが失われたことや、テクノロジーが浸透し、遠隔のコミュニケーションが当たり前になったことを経て、変わってきたように思います。

確かに、コロナ禍でコミュニケーションや孤独について考えた人は多いかもしれません。孤独を解消するためには、どのようなことが必要だと考えますか。

吉藤:私たちは普段、外に出掛ける、誰かに会いに行くといった「移動」、人とコミュニケーションを取る「対話」、仕事をするなどの「役割」、この3つの機能を通じて社会に参加しています。しかし、何らかの理由でいずれかが機能しなくなると、社会との接点が閉ざされてしまい、自分が誰からも必要とされていない感覚に苛(さいな)まれることがあります。そのような喪失感や無力さが孤独の原因になると考えています。

「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」の奥につくられた「スナック織姫」のカウンター

では、どうすれば孤独を克服できるか。私は人同士の関係性をつくることがカギだと思っています。例えば、このカフェには「スナック織姫」というBarカウンターがあるのですが、スナックって、とても面白い仕組みだと思うんです。ママやマスターがいて、その周りに人が集まるコミュニティーが存在する。人々は、飲食を主目的に通うのではなく、コミュニティーに価値を感じて通うわけです。つまり、その場にママやマスターなど「その人がいること」の価値が発揮されています。分身ロボットカフェのパイロットも同じです。「その人がいるから通いたい」、「その人がいるから頑張れる」と思ってもらえることが、孤独の解消につながると考えています。

でも、身体を動かせないと、そうしたコミュニティーが存在する場所に行けません。自分の意思を伝えられなければ、相手とコミュニケーションが取れません。誰かと何かに取り組む役割も得られません。

このように、関係性を構築する上で「移動」「対話」「役割」に課題が生じている人たちに対して、私たちはコミュニケーションテクノロジーを提供し、社会参加の機会を創出することを目指しています。

今、何かしらの理由で孤独を感じている人も大勢いると思いますが、ご自身の経験からアドバイスできることはありますか。

吉藤:私自身が孤独だった頃は、ずっとオンラインゲームをやっていました。オンラインなら、現実世界では出会えなかった人たちと会話ができるからです。私は周りから変人扱いされて誰にも理解してもらえないと感じていた時期がありましたが、仮に1万人に1人にしか理解を得られないような変わり者であっても、1億人いる日本の中だけで1万人の理解者を得られる可能性があるわけです。80億人いる世界に目を向ければ、80万人もの理解者が得られる。それは、本当に誰からも理解されない変人なのか? と思うのです。

「今、自分がいる環境」の枠の中だけで考えると、孤独を感じてしまうかもしれません。でも、オンラインゲームやSNS、さまざまなツールを使えば、きっと自分と気が合う人、自分らしくいられる場を見つけられます。全員から好かれる必要は全くないので、オンライン・オフラインにとらわれずに自分の居場所を見つけていただきたいなと思います。

実際に、不登校だった子が自分の代わりにOriHimeを教室に置いてもらい、OriHimeを介してクラスメートや先生とコミュニケーションを取り続けることで、最終的に登校できるようになったケースもあるんですよ。今までは学校という場所に身体を運ばないとコミュニケーションが取れなかったけれど、今はテクノロジーを活用して、その場にいなくても自分の存在を伝達することができます。さまざまな孤独を解消する手段があるということを知ってほしいですね。

新しい社会参加の形を拡張し、孤独の解消を加速する

吉藤さんが今後注力していきたいことはなんですか。

吉藤:今注力していることの一つが、障がい者の人材紹介です。近年、企業の障がい者雇用が活性化していることもあり、首都圏であれば軽度の障がいがある方の働く場所はそれなりにあります。問題なのは、通勤圏内に大きな会社がない障がい者の方や、身体を動かすことができない重度障がいがある方の雇用です。

これまでの障がい者雇用は事務作業を任されることがほとんどでした。企業側が、障がい者の方々の働き方を理解しきれていないケースも多くありました。そこで、私たちがカフェでの実験結果なども踏まえながらご提案し、企業の皆さんと一緒に新しい働き方をつくっています。

例えばどのような仕事があるのでしょうか。

吉藤:分身ロボットを使って、オフィスの受付や来訪客のご案内をしている方がいます。パイロットの方がお客さまと会話をしながらご案内することで、会議のアイスブレークの役割も担っています。オフィスだけでなく、区役所や市役所の受付、動物園の案内役、飲食店のレジスタッフなど、さまざまなシチュエーションでOriHimeを活用しながら活躍されています。もちろん、OriHimeを使わずに就職される方もいます。

そのような事例を一つでも多く増やし、社会参加の機会拡張を加速させていくことで、人類の孤独の解消につなげていきたいと考えています。

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