このページの本文へ

「『良くなった』『助かった』その一言が何よりもうれしい」betterを積み重ねて、企業のデジタル変革を着実に支援

2023年10月9日

AIの急速な進化、環境問題への関心の高まり、世界的な物価上昇……企業を取り巻く環境は、日に日に複雑さを増してきている。そうしたビジネス環境の変化に柔軟に対応し、新たなサービスや価値を生み出すために、“データ”を重要な経営資源として有効活用する「データドリブン経営」に多くの企業がシフトチェンジしようとしている。

キヤノンマーケティングジャパン(以下、キヤノンMJ)でも、2021年に「デジタル戦略部」を立ち上げ、データドリブン経営を本格的に推進。10年来地固めを続けてきた領域であり、いよいよ具体的施策を固め、事業戦略として加速させていく段階に入っている。そんな同社の要といえる部門で2023年6月までの約2年間、社内外のデジタル変革を担当してきたのが江口 勉だ。

本稿では、明確な正解のない「企業のデジタル変革」において成果を出すためには、「まずは相手の想いを受け止めること」と話す同氏の“情熱の源泉”に迫る。

キヤノンMJの肝いり「データドリブン経営」の本丸でデジタル変革を考え抜く

(前)キヤノンマーケティングジャパン IT本部 デジタル戦略部、(現)エリアビジネスユニット デジタルマーケティング推進本部
江口 勉

「大切にしているのは、まず一度、相手の想いを受け止めること。お客さまや社内の担当者が実現したいことをすべて聞き出した上で、自分にとってもチャレンジングな施策を提案しています。いまのビジネスには画一的な“正解”はありませんので、課題や状況に合わせて、一緒に頭を悩ませることが、何よりも大事なことだと考えています」

自らの仕事のあり方について穏やかながら確かな手応えを感じさせる口調でこう話すのは、中堅・中小の顧客企業を中心に、マーケティングのデジタル変革をサポートしてきた江口 勉だ。

江口が籍を置いていた「IT本部 デジタル戦略部」は、キヤノンMJが注力する「データドリブン経営」の本丸であり、30名以上のエキスパートが在籍する。江口に課せられたミッションは、自社内の中小企業向けビジネスを担当する事業部門(エリアビジネスユニット)のデジタル化の支援をしながら、その中で蓄積した知見を生かして、顧客への直接提案も実施すること。対象として、社内外の両方を常に意識する必要がある。

「デジタル戦略部が方針として掲げる軸は3つ。(1)データドリブンによる課題形成・解決、(2)デジタルによる既存事業の効率化、(3)デジタルによる新しい価値提供の創出。これらに基づいて、社内の各事業部門と協働してアジャイル型の“攻めのDX”を推進しています。幅広く事業を展開している弊社グループ内でのDXを推し進めていけば、おのずと多くの知見が蓄積されます。その知見を新たなビジネス創出やお客さまの事業のサポートに役立てていこうというのが、戦略の大枠です」

数々のデジタル変革を進める中で、特に大きな成果を挙げているのが、社内営業部門で行っている「BtoB営業DX」である。これまでバラバラに保管されていた社内の顧客データを事業部全体で一元管理。「売上実績」「契約・保守期間」「離反実績」などの約30項目を整理してダッシュボード化し、営業担当が自由にアクセスできるようにした。そして、どのデータを優先的に参照すれば顧客に効果的なアプローチができるのかが表示される仕組みとなっている。つまり、担当者が次に行うべきアクションを、システムが自動的に明示してくれるのだ。

「こうしたデータに基づく営業スタイルは、従来よりも商談に至る確率が1.7倍になるという結果が出ています。今後はAIも取り入れていく予定で、契約成立の可能性が高い順に見込み顧客をリストアップするという機能の搭載も検討しています」

社内変革で培った成功メソッドを社外のお客さまに提供

しかし、成果が出るまでには一筋縄ではいかなかった。変革に対し、すぐに組織のメンバー全員の足並みが揃うとは限らない。それはキヤノンMJも例外ではなかった。

半端な成果では意味がない。目指す姿にたどり着くためには抜本的な変革が必要となる。そこで江口たちは、「デジタル変革」の土台となる企業文化・風土の変革を目指し、人材育成に着手した。全社員向けにデータリテラシー教育を実施。さらにデジタル人材の職種と必要なスキルを再定義し、スキル階層別にワークショップを行うなど、データアナリストやデータサイエンティストといった専門家の育成にも力を注いでいる。

「これらの取り組みは事業部門と連携していて、デジタル戦略部から事業部門にデータアナリストを派遣したり、逆に事業部門からデータ活用ノウハウを学びにきたりといった交流も行っています。やはり、デジタル変革と人材育成は切り離して考えることはできません。最近ではお客さまからデジタル人材の育成について相談されることも多く、これまで蓄積してきたノウハウを提供して、お客さまのDXをサポートしています」

見えない正解をともに模索しながら、“共創”による大きな成果を目指す

江口の入社は2007年。大学で情報システムについて学び、その知識を生かせる就職先を探してキヤノンMJに行きついた。最初の配属は、顧客のもとへ足を運び複合機などの製品をメンテナンスするサービス部門。そしてその後、札幌支店の勤務を経て、2013年に本社のIT部門に異動となる。

「入社当初は想像していた業務のイメージと違うと思いましたが、サービス部門や支店業務でお客さまと直接会話する経験を経ることで、もともとやりたいと感じていたITに関する仕事の解像度が高まりました」と語る江口。それまでの現場での経験を生かし、IT部門ではパートナー企業のECの設計や運営の仕事に情熱を注いでいった。

デジタル戦略部に異動したのは2021年1月。そこで、大きな壁にぶつかることになる。部署新設から数カ月が経った頃で、強い意気込みで臨んだ新たなミッションだった。

「できる!と思っていたはずなのに、何から手をつければいいのか、全く分からないんですよ。実際のビジネスと組織の課題を前にしてみて初めて、その難しさを肌で感じました。DXが必要なことは分かる。でも、そのための具体的な方法が分からない……。すごく悩んでしまって、部署、部門関係なくいろいろな人に相談しました。けれど、返ってくるのは自分と同じ『分からない』。そこで気付きました。“あ、みんな正解が分からないまま、試行錯誤してるんだ。じゃあ、自分のやり方で思い切ってやってみよう”と」

もともと生真面目で、綿密な計画を立てて物事を進めていくタイプ。そこで江口は、各事業の現状を分析し、そこから問題点や課題を洗い出してDXの優先順位を付けることから始めた。そしてキヤノンMJグループ全体の売り上げの約4割を占める、エリアビジネスユニットが担当する事業領域と取り組みを開始した。

エリアビジネスユニットでは、全国の中小企業を対象に、経営課題の解決のための幅広いソリューションを提供している。各地のビジネスパートナーやシステムパートナーなどと密に連携し、顧客との商談や製品・サービスの提供を行う上で、より効率的な営業プロセスの変革が強く求められていたのだ。

「これまでは当社の営業担当が直接、パートナー企業に対して情報提供や商談支援を行っていました。しかし社会の変化に伴い、業界や企業規模問わず、“自社でデータを蓄積・分析し、知見を得ていく必要がある”という意識が高まり、お客さまの現場からも『デジタル変革の支援をしてほしい』という声が強くなっているのを感じました。そのため、製品情報サイトの刷新やマーケティング・オートメーションツールの導入支援を行うなど、製品だけでなく、デジタルを生かしながらともに課題を解決していくという営業プロセスへと変革を進めてきました」

顧客のDX支援においても、「情報をすべて洗い出して、一歩一歩、着実に歩を進めていく」という江口流は変わらない。そのために欠かせないのが冒頭の「相手の想いをまずは受け止める」姿勢である。

「ビジネスに限らず、大きな結果を生むために必要な考え方は“共創”だと思っています。まずは話を聞いて、信頼関係を築いてからお客さまと一緒に意見をすり合わせていく。その際に心掛けているのは、時代や社会の流れを先読みして、プロとして施策を提案すること。単に現状の課題を解決するだけでなく、数年先に期待を上回る成果を出すことを目指しています」

例えば、ある通信機器メーカーのデジタル変革を支援した際には、中期経営計画の策定からサポートした。事業の競争力強化のために具体的にどのようにデジタル変革を進めていけばいいのか、段階的に示すことによって、全社員が目標を見失わないように努めた。

「もちろん、収益増加に直結する事業変革の支援もしていて、最近ではお客さまの製品情報サイトの全面リニューアルを行いました。3カ月ほどの期間で50以上のコンテンツを作成するというハードな仕事でしたが、自社のECサイト構築で培った技術や知見を生かし、やり遂げることができました。アクセス数も増加して、何より、お客さまに喜んでいただけたことがうれしかったですね。今後も伴走支援を続けていきます」

大切なのは、betterを積み重ねること

いま多くの企業が、DXによる業務改善、事業変革に取り組んでいるが、必ずしも成功しているわけではない。むしろ、期待されている成果を挙げられずに、悩んでいるDX推進担当者は多いかもしれない。そんな方々に向けてのアドバイスとして、江口はこう述べる。

「アドバイスというか、これは自分自身が常に意識していることなのですが、 “betterを積み重ねる”でしょうか。いまはビジネス環境が複雑かつ猛スピードで変化を続けているので、何が正解なのか分からない時代です。そんな中で、いきなりベストを見つけるのは困難。だから、“現状からひとつ階段を上がる”という気持ちで、前に進んでみる。細かく目標を設定して、一つひとつクリアしていけば、達成感も得られるし、モチベーションも維持できると思います」

自分は、閃き型の天才ではない。そう自認する、江口らしい答えが返ってきた。

社内変革の一環として、定期的なメルマガ配信やオンラインでのセミナーを通じて社内のDX情報の共有を進めるだけでなく、近頃はDXをテーマにした社外のオンラインイベントにも参加し、自らの経験を積極的に世の中に発信している。それは、かつての自分のように、茫洋としたDXという目標に相対して、“何から始めればいいのか分からない”と悩む人を少しでも減らしたいという思いからだ。

そんな江口だが、2023年7月からはエリアビジネスユニットに配属となり、同ユニットの営業力強化・生産性向上を実現するため、統合情報サイトやデータ基盤といったデジタルインフラの構築と活用推進に取り組んでいる。デジタル戦略部の時は上記のインフラ構築に向け、エリアビジネスユニットと営業プロセス変革の構想策定を、そして今期からはより事業に近しいところでこの構想を具体化・浸透させていくため、IT本部だけでなくユニット内の関連部門との連携に腐心していると言う。

「日々仕事をしていく上で大事にしている考え方を“一言”で教えてください」との問いに、
はにかみながらも自信を感じさせる表情で答える江口
  「何よりの癒やし」と語る愛犬のパールと

最後に、直球の質問を江口にぶつけてみた。いまの仕事の“情熱の源泉”は何か。

「『なんか良くなったね』という言葉ですね。売り上げアップとか、営業成績の向上とか、数字で見える成果も大切ですが、やっぱり、現場の人から『困っていたけど、江口さんのおかげで助かったよ』と言ってもらえることが、一番の励みになります。もしデジタル変革で悩まれているなら、ぜひキヤノンMJにご相談ください。弊社グループが全力でサポートします」