介護・福祉業界のイメージを変えたい。現場が求める真のDXで未来を育む
2024年8月28日
超高齢社会の日本において、介護・福祉業界の人材不足は深刻な社会課題の一つ。さらに、業務効率化に不可欠なICT化の遅れも人材不足に拍車をかける大きな要因となっています。
長く中小企業におけるITの導入や運用を支援してきたキヤノンシステムアンドサポート(以下、キヤノンS&S)は、2年ほど前から介護・福祉業界にもDX提案を行ってきました。そして、同業界において30年以上前からICT化に取り組んできた株式会社ケアコネクトジャパン(以下、CCJ)と、2023年に資本業務提携を結びました。この提携により、業務負担の軽減などにつながるDXに一層貢献できる体制が整い、同業界が抱える人材不足をはじめとする社会課題の解決に、これまで以上の期待が寄せられています。
今回、CCJ 常務取締役の山梨 敦也さんをお招きし、キヤノンS&S 業種ソリューション営業推進本部の末岡 淳一と共に、介護・福祉業界に対する想いや、今回の提携により両社が描く同業界の未来について語ってもらいました。
私たちが知っておくべき介護・福祉業界の課題とは?
― 2003年に創業され、長い間、介護・福祉業界に携わってきたCCJさんの立場から、同業界の現場が抱える課題について教えてください。
山梨:近年、介護・福祉サービス従事者の数自体は増えていますが、必要数はそれを大きく上回る状況で、慢性的な人材不足です。さらに、介護報酬改正への対応など利用者(被介護者)と直接関わる業務以外にも人手を取られ、人材不足に拍車がかかっています。そのため、現場となる施設はどこも、あの手この手で人材を確保しようと必死です。
末岡:山梨常務がおっしゃった需要に対する供給不足や業務負荷などは認識していましたが、実際に現場に行ってみると、その深刻度は想像を超えていました。山梨常務をはじめ、CCJの皆さまに教えていただきながら具体的な課題がやっと見えてきた中で、ICT化の遅れも実感しています。
― ICT化の遅れも人材不足に拍車をかける大きな要因なのですね。
山梨:はい。ICT化は人材不足を解決するための重要な取り組みですが、残念ながら、他業界に比べて遅れているといわざるを得ないでしょう。経験からの印象ですが、介護記録を手書きでつけている施設は6〜7割くらい、見守り機器を導入していない施設は5〜6割くらいあるのではないでしょうか。
私たちCCJは、そのような状況にある介護・福祉業界のICT化を後押しし、どうにか現場(施設)の業務負荷軽減や人材不足解消につなげたいと、長年、「CAREKARTE(以下、ケアカルテ)」というソリューションを提供してきました。
― ケアカルテとはどのようなソリューションなのでしょうか?
山梨:ケアカルテは、見守り機器などさまざまなICT機器(介護製品)とつながって、介護プランの作成、介護記録、請求までをトータルにサポートできる仕組みです。
創業当初、介護職員さんが介護記録を手書きで書いている姿を見る機会がありました。とても大変そうで、「私たちがお手伝いできることはないだろうか」と開発に着手したのが、30年以上前です。今は、全国約1万8000の施設で利用いただいています。
― 介護記録をつける職員さんの負担を軽くすることが出発点だったのですね。
山梨:そうです。介護職員さんは、被介護者の起床や食事などあらゆる介護記録をつけなければならず、これは大変な作業です。職員さんの業務省力化を踏まえると、現場ですぐに入力できることが大切と考え、開発当初からモバイル端末で利用できるようにしました。今はスマートフォンにも対応しています。
ケアカルテとキヤノンS&Sの営業・サポート力で施設のDXを加速
― CCJさんとキヤノンS&Sの提携について、そのきっかけを教えてください。
末岡:私たちキヤノンS&Sは、2年ほど前から介護施設のDXを支援しています。介護記録のICT化はDXの肝にもなる重要な要素です。そのため、この分野で高い評価を得ているケアカルテを提供しているCCJさんとタッグを組めれば、より介護・福祉業界に貢献できると考えました。
― つまり、ケアカルテの魅力に引かれたと?
末岡:そうですね。ケアカルテは介護記録を中心に機能やサービスがそろえられているため、現場に最も求められているものだと感じて、私たちからCCJさんにアプローチしました。
今だからお話ししますが、ケアカルテの評価を確認するために、見守り機器やナースコールのメーカーさん数社を訪問しました。ショールームで製品を見せていただきながら、「介護記録のソリューションと連携するなら何がおすすめですか?」と伺ったところ、すべてのメーカーから「ケアカルテです」と答えが返ってきました。「メーカー各社が最初に挙げる製品なら間違いない、提携するならCCJさんだ」とお声がけしたことは間違いなかったと個人的に確信しました。
山梨:そうなんですか! その話、初めて聞きました。末岡さんをはじめ、キヤノンS&Sの皆さんがケアカルテを本気で理解しようとしてくれていたことがうれしいですね。
― CCJさんは、キヤノンS&Sのどこに魅力を感じたのでしょうか?
山梨:介護現場のICT化は待ったなしの状況です。私たちはケアカルテを1日も早く普及させて日本の介護・福祉業界の現場を変えたいという想いがありますが、現実問題として、私たちだけで全国を網羅して「営業〜導入〜サポート」を手がけることに限界も感じていました。
そんなときにキヤノンS&Sさんからお声がけいただいたんですね。キヤノンS&Sさんのブランド力や全国各地を網羅する営業・サポート力はとても魅力的でした。
最初はどこまで本気なのか懐疑的でしたが、静岡にある私たちの本社や介護施設での実地研修などに熱意をもって取り組まれている姿を見ているうちに、介護・福祉業界の現場を変えたいという熱い想いを感じることができ、今は共に進んでいけると思っています。
施設の方々が本当に見たい展示を実現するために
― CCJさんとキヤノンS&Sが組むことで、介護・福祉施設にはどのような価値を提供できるのでしょうか?
末岡:キヤノンS&Sが取り扱う見守り機器やナースコールといった周辺機器とケアカルテを連動させ、トータルの仕組みとして提供し、さらに運用まで支援します。それにより、介護・福祉業界のDXをより加速させることができます。
その結果、施設で働く職員の皆さんが介護記録などの事務作業ではなく、今まで以上に被介護者と向き合う業務に時間を割けるようになるはずです。
山梨:施設の職員さんの1日の業務の中で、介護記録のために割く時間は、手書きだと30%ぐらいといわれています。その時間をICT化で5%にまで圧縮できれば、余った25%は主業務である被介護者のケアや職員さんの休憩時間に回すことができます。現場にとって、この時間配分の差はすごく大きいと思います。
また、職員さんの作業効率も上がりますので、結果として施設の稼働率も高めることができます。デイサービス※では人手が足りずに撤退したり、サービスを一部休止したりしているところも少なくありませんから。
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デイサービス:福祉・介護施設などが、要介護状態にある高齢者への入浴や排せつ、食事などの介護を日帰りで提供するサービス
― 少しでも職員さんの負担を軽減できれば、働きやすい環境にもつながりますね。
末岡:そうですね。実際、ケアカルテを導入した施設のほとんどで、職員さんの離職率が下がったと伺っています。現場に重くのしかかる介護記録業務が減る効果は大きいと思います。
山梨:また、施設が試行錯誤されている採用面での効果も期待できます。「現場では(ケアカルテのような)こういうシステムを使って、介護記録は手書きではなく音声入力で」などとアピールできるので、働きやすい環境だと認識してもらえるのではないでしょうか。
― 提携から約1年が経過します。印象に残っている取り組みはありますか?
山梨:いろいろありますが、思い出深いのは、全国6カ所を回ったセミナー兼展示会で、介護製品の比較ができる展示を行ったことです。
一般的な展示会では、メーカーごとに製品を展示するのですが、そのときは、1台のベッドの上に同種類の複数メーカーの製品(見守り機器やナースコール)を並べて、人が起き上がったり、ベッドから落ちてしまったりするとどのように反応するのか、その場で比較して見られるようにしたのです。
これがとても好評でした。ただ、このような展示は私たちだけではできません。キヤノンS&Sさんとだからこそ実現できたんですね。
末岡:メーカーごとに製品が展示されていると、たくさんある製品をメーカーごとに見て歩きながら「あれはこうだったな、これはこうだから……」と、記憶の中で比較検討しなければならないので判断しにくいと思ったのです。では、どうすればいいのか? と。
本当にお客さまが求めている情報が何かを、CCJさんと共に考えぬいた結果、そのような展示になりました。お取引のある介護製品のメーカーさんにとっては、一発で比較できるような展示方法は抵抗があったはずですが、なんとかご協力いただけて。皆さんのご協力があってこその結果です。
山梨:それぞれのメーカー(製品)には得意不得意があります。何が違うのか、自分たち(施設)にとっての善しあしを判断しやすい、本当に見たいものを見ることができる展示だったと思います。介護製品の展示会っていろいろあるんですが、私の知る限り、今回のような展示方法は初めてではないでしょうか。
実際のところ、「何社くらい呼べるのか?どのくらいの人数が来るのか?」っていう入場者数が先立つイベントは多いですよね。もちろんそれはそれで重要なのですが、「呼んでよかった」って思える、「来てよかった」って思ってもらえる、イベント後のことまで考えたアプローチでした。
末岡:いわゆる「イベント」ではありますので、集客数はもちろん大切ですが、来ていただいたお客さまにどれだけ有益な情報を提供できるのかが重要です。単なるビジネスとして介護・福祉業界に関わるのではなく、同業界が抱える社会課題を解決しようと本気になって取り組めたと思っています。
また、私としては、現場で長年やってこられた山梨常務に「キヤノンS&Sの皆さんの顔つきが、すごく変わってきたね」と、その展示会を通じて私たちの姿勢を評価いただいたのがすごくうれしかったですね。生きたイベントができたと実感しました。
介護・福祉業界のイメージを変えたい。持続的な発展のためにできること
― 協業を通じて、今後、日本の介護・福祉業界をどのように支えていきたいですか?
山梨:まずは介護記録のICT化を進めます。そして、「介護・福祉業界も積極的にDXに取り組んでいる」ことを世間に浸透させて、同業界のイメージを変えていきたいんです。不可能なことではありません。
今、同業界は「大変そう、きつそう」といったマイナス面のイメージが強いですよね。デジタルをうまく取り込んで効率よく仕事ができる業界になれば、若い人に選ばれる業界になると信じています。
末岡:私たちも想いは一緒です。ぜひ、共に取り組みたいと思っています。
― ケアカルテもそこに向けて、さらに進化するのでしょうか?
山梨:そうですね。既に介護記録の音声入力は実現しているのですが、さらにその先、職員さん自身が入力する必要のないレベルを目指しています。センサーやカメラなどを使えば職員さんの動きを把握できますので、それが記録として整理される世界です。
実は現時点でも技術的には実現可能ですが、コスト面のハードルが高い。業界のDXが進んで新しい技術も広がれば、さまざまなコストが下がってくるでしょう。私たちで実現させたいですね。
― 熱い想いがあるのですね。今後の展望についても教えてください。
山梨:介護記録によって蓄積されるデータの活用などを考えています。例えば、施設の入所者が転倒して骨折してしまった。すると、介護の難易度が一気に上がって職員さんの負担も増えます。ですが、蓄積されたデータを活用してリスク予測し、実際の介護や施設の設備などに反映して「転倒そのもの」を未然に防ぐことができれば、この負担自体が存在しなくなるわけです。
― キヤノンS&Sさんはいかがでしょうか?
末岡:私たちキヤノンS&Sはこれまで、バックオフィスをメインにDXの支援を行ってきましたが、2018年に現社長の平賀が「お客さまの進化を支援していく」という方針を打ち出しました。これを実現していくためにも、バックオフィスだけでなくフロントオフィスの支援も重要になります。
ケアカルテもまた、フロントオフィスを支援するものです。私たちにとって新しい分野であり新しいビジネスですが、CCJさんと一丸となって介護・福祉業界のためにやれることは多いはずです。例えば、私たちが得意とするネットワークカメラなどの周辺機器と組み合わせることで、施設の経営支援につながる、介護・福祉業界の社会課題解決につながるような新たな価値を創造できるでしょう。その可能性は大きいと感じています。
― 介護・福祉業界が抱える社会課題は、私たちにとっても人ごとではありません。今回の協業で創造・提供される価値に期待が膨らみます。本日はありがとうございました!