東日本大震災から十余年。いまもこれからも、キヤノンMJが復興・創生支援を続ける理由
2024年10月10日
2011年3月11日に発生した東日本大震災。最大震度7が観測され、地震のみならず、津波や原発事故の影響で、東北地方は太平洋側の沿岸部を中心に甚大な被害を受けました。キヤノンマーケティングジャパン(以下、キヤノンMJ)では、震災直後から同地域の復興支援に取り組み、仙台支店に専門組織を立ち上げ、現在も東北復興・創生推進室として活動を続けています。
そして、震災から14年目の2024年、次の時代に向けた復興・創生のあり方を、同室のミッション、ビジョンとしてあらためて掲げました。時間とともに変わりゆく被災地のニーズや課題に寄り添い、地域に根ざした取り組みを続けるキヤノンMJ。その活動に込められた想いについて、室長の前田 幸宏さんに聞きました。
復興から地域活性化と持続可能性へ。移り変わる被災地の課題
― 震災から十余年、今の震災復興はどのような状況でしょうか。
私は、2023年、仙台支店の支店長への着任と同時に、東北復興・創生推進室の室長も務めることとなりました。被害の大きかった沿岸部に足を運ぶことも多いのですが、私の見る限り、防潮堤や高速道路といったインフラの復興はかなり進んできていると思います。
同時に、地域が抱える課題の移り変わりも感じており、多くの地域では、まちの活性化や持続可能性、市民同士のつながりに焦点が当たっています。ただ、原発事故の影響を受けた一部の地域では、数年前に避難指示が解除されたばかりで住民があまり戻ってきておらず、これから本格的に復興に取り組む段階です。このように、地域によって課題に差があるのが現実ではないでしょうか。
「私たちだからできること」を明らかに。ミッション、ビジョンの策定
― 東北地域の支援を目的とした組織を、今も東北の地で維持している企業は珍しいと伺いました。
震災復興が進むにつれ、一定の目的を達成したと判断して、支援組織を解散したり組織の所在地を(本社のある)東京などの都市部に移したりした企業がほとんどですね。周りを見渡すと、今も東北の地に復興に関する組織を置いているのは、私たちともう1社くらいだと思います。「(キヤノンMJは)まだ支援組織を残すの?」と聞かれることもありますが、私は、この組織を残せるように頑張りたいと考えています。
私たちキヤノンMJは、震災直後から支援をスタートし、2012年には仙台支店に東北復興支援室(現、東北復興・創生推進室)を設置、さまざまな復興プロジェクトに取り組んできました。今、組織を解散するのは簡単かもしれませんが、私たちがやれることはまだたくさんあるはずです。
― 推進室を続けていくために、課題や指針などがあれば教えてください。
一般的に、一つのプロジェクトが長期間に及ぶと、どうしても「プロジェクト自体が目的化してしまう」という課題が生じがちです。10年以上続けてきたこの取り組みについても同じ状況だったため、あらためて昨年、支援に携わるメンバー全員で、これまでの取り組みを振り返り、推進室の存在意義や提供価値について議論を重ねました。
その結果、私たちの存在意義や提供価値は、地域の「復興」「広報」「観光/産業」「教育」「伝承」の5つの領域に及ぶと考えました。
さらに、「被災地に寄り添い、キヤノンMJグループならではの技術を生かして、東北の復興・創生に貢献する」というミッションと、「全国に東北の美しさと文化をキヤノンの技術(映像・写真・ITS)で発信する」というビジョンを掲げました。今後、この5領域において、キヤノンMJだからできることを突き詰めていくつもりです。
震災から数年は、津波などで大きな被害を受けた地域を中心に実施し、仮設住宅でのコミュニティーづくりや、長い避難生活によるストレスの解消、新たな思い出づくりを主な狙いとしていました。現在は、撮影を通じて地域の魅力を掘り起こし、まちへの愛着を高める体験へと移り変わりつつあります。
今特に力を入れているのは、地域の企業・自治体とのコラボレーションです。例えば、宮城の気仙沼では、地元の水産会社と漁協の協力のもと、「生鮮カツオ水揚げ27年連続日本一」をテーマに気仙沼市魚市場の見学、水揚げされたカツオを使った料理教室などと、撮影・写真プリントの体験をセットにしたプログラムを実施しています。
― 推進室ではこれまで、どのような取り組みを行ってきたのですか。
本プログラムでは、地域の方々にキヤノンのカメラを貸し出し、家族や友人、地元のスポットなどを撮影してもらいます。その中から、お気に入りの写真をプリントアウトします。ファシリテーターのアドバイスのもと、カメラの使い方や撮影方法などを楽しく学びながら、大切な人や身近な場所を撮影・写真プリントする体験は、スマートフォンでの撮影とはまた違った面白さがあると思います。
一例に「みんなの笑顔プロジェクト」があります。「写真を楽しもう」をコンセプトにした、撮影と写真プリントを体験するプログラムで、これまでに50回以上開催してきました。
― それは面白そうですね。
ふだんは中に入ることのできない施設に足を踏み入れたり、カツオ一本釣り漁船から水揚げされるカツオを目にしたり、さらには初めてミラーレスカメラを手にする方もいたりして、大いに盛り上がりました。
地域の企業の中には、コロナ禍を経て住民とのつながりが切れてしまったところも少なくありません。地域をつなぎ地元の産業を支えるという観点からも、写真の持つ力を感じています。
― そのほかには、どのような取り組みがあるのでしょうか。
宮城、岩手、福島の3県の広報担当職員さん向けの写真撮影研修会などがあります。広報における写真の役割はとても重要ですよね。撮影テクニックなどを、私たちのサポートで底上げできればと思っています。
地域との絆を大切にし、これからも頼れるパートナーでありたい
― キヤノンMJが東北地方の復興・創生を支援し続けることには、どのような意義があるのでしょうか。
私たちが手掛けるプロジェクトの一つひとつは、小さなアクションに過ぎないですし、即効性のある何かしらの結果が期待できるものでもありません。けれども、東北各地の希望や未来につながっていくものだと確信しています。
例えば、「みんなの笑顔プロジェクト」に参加した子どもたちの、撮影体験を通じて家族や友達と思い出深い時間を過ごしたり、無意識のうちに地元の良さに引き込まれたりといった体験は、ふるさとへの意識を強くするはずです。仮に成人して都市部で暮らすことになっても、地元への愛着を持ち続けることでしょう。それは、地域と継続的な関係や交流を持つ関係人口の形成に寄与するだけでなく、ライフステージが変わった際にUターン移住を考えるきっかけとなるかもしれません。
2024年春に福島県双葉町で開催したプログラムでは、古くからまちのシンボルである前田川の桜並木を撮るという共通の体験を通じ、参加いただいた住民同士の距離が一気に縮まる様子を目の当たりにすることができました。そうしたポジティブな出来事のそばに、うっすらとでも“キヤノン”の存在を感じてもらえたら、うれしいですよね。
― 支援を通じ、キヤノンMJへのエンゲージメントを高めていくのですね。
そうですね、私たち推進室が取り組むプロジェクトがきっかけになって、キヤノンのカメラやプリンターを選んでいただいたり、逆に、オフィスなどでキヤノン製品を目にしたときにプログラムのことを思い出してもらえたり。そういう小さなきっかけが積み重なって、絆が深まっていくのではないでしょうか。
被災した自治体の多くは、まちの衰退という事態に直面しています。その中で、震災の記録・記憶、地域の文化・風習をどう伝承していくのか、進学や就職を機とした若者の流出をどう止めるのかなど、課題は山積しています。
限られた資源でそうした課題に取り組むためには、信頼できるパートナーと共に思い切ったデジタルシフトが不可欠だと思います。復興・創生活動を通じて、継続的に地域に寄り添い続けてきた私たちキヤノンMJであれば、本格的なDXに着手するとなったとき、その地域のこと、人のこと、産業のことをより深く理解したうえで、地域にフィットした最適解をご提案できるはずです。
それは、やはり仙台という東北の地に拠点を設け、10年以上にわたり震災からの移り変わりを、地元の皆さんと共に見つめ続けてきたことが大きいでしょう。被災地域だけでなく、東北のこれからを見据えたときに、キヤノンMJが頼れるパートナーとして第一に想起される存在でありたいですよね。そのためにも、推進室をこれから先10年、20年と続く組織にし、東北の活性化に貢献していきたいと考えています。
<推進室の取り組み>「東北絆まつり」プロモーション映像制作プロジェクト
東北6市の伝統が一挙に集結 〜たぎる情熱を杜の都から世界に発信~
東北では、各県の県庁所在地6市の持ち回りによる「東北絆まつり」を毎年開催しています。東日本大震災で犠牲となった方の鎮魂と復興を願う「東北六魂祭」を引き継ぐ形で、2017年よりスタートしました。最大の見どころは、「青森ねぶた祭」や「秋田竿燈まつり」といった各市の伝統的なまつりがひとつの会場に集まることで生まれる迫力と一体感。躍動感と熱気は観客の心を動かし、期間中はまち全体に活気がみなぎります。
東北復興・創生推進室では、2024年の開催地である仙台市と協力し、「東北絆まつり」のプロモーション映像を企画・制作しました。
これまでの「東北絆まつり」では、記録映像は残してきたものの、周知や集客を目的としたプロモーション映像は制作してきませんでした。一方、キヤノンMJには、全国各地の伝統的なまつりを伝承していくことを目的に立ち上げた、日本のまつり探検プロジェクト「まつりと」を手掛けるなど、高い映像技術力があると同時に、クリエーターとのネットワークを通じたコンテンツ制作の豊富なノウハウがあります。
完成した映像は、華やかな演舞や色彩鮮やかな衣装のみならず、会場で食べられる郷土料理や、パレードに目を奪われる観客の様子などを、リズミカルな音楽と合わせることで、まつりの醍醐味(だいごみ)を余すところなく伝える内容となっています。
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