このページの本文へ

「想いと技術をつなぎ、想像を超える未来を切り拓く」
キヤノンMJグループがパーパスに込めた想いと、未来への道筋とは?

2024年5月7日

私たちの想い

「想いと技術をつなぎ、想像を超える未来を切り拓く」。キヤノンマーケティングジャパン(以下、キヤノンMJ)グループは2024年1月29日、パーパスを制定したことを社外に公表しました。「私たちはなぜ存在するのか」「どんな社会をつくっていきたいのか」といった社会的存在意義を示すパーパス。より多くの皆さまに深いご理解と共感をいただくために、パーパスそのものだけでなく、その裏にある私たちの想いもお伝えしたい。

そこで今回は、パーパス経営研究の第一人者である京都先端科学大学教授、一橋大学ビジネススクール客員教授 名和 高司氏をお迎えし、パーパス制定の取り組みの中心となったキヤノンMJ 代表取締役社長 足立 正親との対談を行いました。名和氏にパーパスの浸透や実行に必要なポイントを伺いながら、足立がパーパスにかける想いとこれからを語ります。

キヤノンMJグループの「総合力」を表現した、未来につなげるパーパス

経営学者名和高司氏 キヤノンマーケティングジャパン 代表取締役足立正親

名和氏:本日は、お招きいただきありがとうございます。公表されたパーパスを拝見し、お話を伺えることを楽しみにしていました。

足立:こちらこそ、対話の機会をいただけて光栄です。

名和氏:さっそくですが、制定されたパーパスは「想いと技術をつなぎ、想像を超える未来を切り拓く」ですね。なぜこの言葉に至ったのですか。


キヤノンマーケティングジャパン 代表取締役社長 足立 正親
キヤノンマーケティングジャパン 代表取締役足立正親

足立:実は約2年をかけて、このパーパスにたどり着きました。

キヤノンMJ グループは1968年に誕生し、常に社会の変化に合わせ事業を拡大してきました。BtoBとBtoC、両方のビジネスを展開し、事業領域も幅広く深い。グループ内でシステム構築からマーケティング、販売、保守サービスまで、さまざまなサービスを網羅しています。このような会社は、世の中にあまりないと私は思います。

私は営業畑を経て2021年に代表に就任したのですが、以来、それまで以上に社内のさまざまな人と会う機会が増えました。改めて実感したのは、本当に多彩な人材が活躍していること。 この総合力をもって、さらにお客さまに価値をお届けしていきたい。そのためには社員の想いを一つにしなければ。そう考え、まずは自社がこれまでやってきたこと、強み、存在価値などの整理から取り掛かりました。その結果としてパーパスの制定に結びついたのです。

総合力を表現するために、あえて言葉に“遊び”を持たせています。少しふわっとした表現に感じられるかもしれませんが、それが核心でもあるのです。

特設サイトでは、パーパスをストーリーとともに紹介している
キヤノンマーケティングジャパングループパーパス 特設サイト

名和氏:言葉に“遊び”を持たせることで、本社部門やグループ会社を含め、全員が共感できるものになっていますね。「目先の目標」ではないが、自社のイメージから離れていない。未来につなげていけるパーパスだと感じます。

足立:私を含めた経営陣も、いつかは引退するときがきます。ですから、今後10年20年とパーパスを体現し、けん引していく次世代の意見を積極的に聞きました。長く受け継がれ、グループ共通で社員の志を一つの方向に向ける北極星のような存在にしたい。そう考えています。

パーパスを視覚的に分かりやすくビジュアル化したシンボルマーク。
さまざまな「想い」と「技術」を、大きさと色の違う一つひとつの輪で表し、それらがつながり、連環し、無限大に広がっていくということをイメージ化した

キヤノンマーケティングジャパングループ パーパスロゴ

名和氏:併せて公表されたシンボルマークも拝見したのですが、さまざまな「想い」と「技術」のつながりが表現されている。とても分かりやすいですね。

パーパスを北極星と表現する例えは、私もよく使ってきました。ただ、実は以前インドネシアで講演した際に、「南半球からは見えない」という声をいただいて……(笑)。以来、「星座群」と表現しています。一点のみに集中するのではなく、方向性を示し、広がりを感じさせる表現です。このシンボルマークを見てそれを思い出しました。

足立:「星座群」とは、とても良い表現ですね。このマークは、無限大の可能性を表しています。キヤノンMJグループにはさまざまな事業がありますし、社内だけでなく、ステークホルダーの皆さまにも共感を広げていく、そんなイメージにもつながるように思います。

約9カ月の期間を設け、パーパスのより深い浸透を図る

経営学者名和高司氏 キヤノンマーケティングジャパン 代表取締役足立正親

足立:パーパスを社外公表したのは2024年1月ですが、実はグループ内には前年4月に公表していたんです。約9カ月間、準備期間として社内への浸透を図りました。

名和氏:それは良い取り組みですね。どのように進めたのですか。

足立:まずは、パーパスそのものと、そこにかける想いを私自身の言葉で直接、もしくは動画メッセージで伝えました。そこから、全社に向けて社内報やeラーニングを中心に積極的な発信を行い、より理解を深めました。

加えて、各グループ会社およびキヤノンMJの各事業部が、それぞれの事業に落とし込む取り組みを行っています。事業ごとにパーパスをもう一段掘り下げ、お客さまに対し、私たちの想いや提供できる価値、それを裏付ける強みや仕組みを詳細に言語化したのです。

また、手応えを感じているのは「ミライビトーク」という、私がさまざまな現場を回り、直接社員とパーパスについて語り合う場です。これまでに、すでに9カ所で実施しました。
浸透施策を始めた数カ月間は、いまいちピンと来ないという声も多かったのですが、徐々に皆の“腹落ち”が進んでいると感じます。

京都先端科学大学教授、一橋大学ビジネススクール客員教授 名和 高司氏
経営学者名和高司氏

名和氏:直接対面して浸透を図ることにも力を入れていらっしゃるのですね、素晴らしいと思います。「企業としての浸透」、次に所属する部門や個人に落とし込んで「より腹落ちする浸透」。浸透はこの二段階で行うことが重要ですね。

「企業として」という視点ばかりが強すぎると、「会社が言うことは素晴らしい。でも自分の業務では、パーパスの実現に向けた取り組みに貢献できない」と感じてしまう。特にバックオフィス系の部門は、自身の仕事が社会につながるというイメージができて初めて、パーパスを実践する企業の一員だと感じられることが多いです。

私は、よく駅伝に例えるのですが、走る選手は当然重要、しかし沿道で応援する人、水分を供給する人など、支える人も重要です。走らなくても一体となって感動を届けている。その一体感を生み出すためには、二段階目のより深い浸透がとても大切なのです。

会社と個人のパーパスが重なる部分を示した図

足立:なるほど。では、パーパスを今後さらに浸透させていくために、良い方法はありますでしょうか。

名和氏:「二段階目の浸透」について、さらに施策を進めるのがいいと思います。パーパスは個人に落とし込むことがとても難しい。そこでパーパスの「ベン図」を描いてもらうのです。会社と個人、それぞれのパーパスを描き、重なるところはどのくらいか考えます。

重なる部分(★)を「ハッピーゾーン」と捉えます。ただし、重なるほどいいというわけではありません。仕事(ワーク)が自分(ライフ)と100%重なってしまうのは、逆に不健全です。0%だと困りますが、たとえ10%でも構いません。

足立:ここからどのようなことを考えるといいのでしょう?

名和氏:「重なっていないところ(上図の①と②)」に注目します。「会社だけの領域(①)」に入るのは、「会社のパーパスはいいことを言っているが、腹落ちまではできない」「自分の業務ではパーパスを体現できない」などと感じている部分。仕事の中心がこの領域にあると感じている人には「自分がパーパス実現を目指す会社の一員として、この会社で誇りに思えることはないか、応援できることはないか」を考えてもらい、何らかの形で参画している感覚の醸成を促します。そうすると、ハッピーゾーンがもう少し広がり、この会社で働くことに、より、やりがいや楽しさを感じられるようになる可能性があります。

逆に、「自分が目指したいけれど、会社が目指すこととは、ずれている」という「個人だけの領域(②)」については、社員の想いを大切にして積極的に会社に働きかけられるように促すのです。会社を通じて自身の想いを実現できれば、それはイノベーションにつながります。

こうした言語化・図解化を通してコミュニケーションすることによって、社員もパーパスを「会社が言っていること」から「自分ゴト」として捉えられるようになり、より前向きに仕事に向き合えるのではないでしょうか。

足立:社会に出ると、たくさんの人が人生の多くの時間を仕事に費やします。ですから仕事は楽しい方がいいと思いますし、ワクワクしたいですよね。ベン図を描いてハッピーゾーンを発見するというお話は、会社と社員、お互いがポジティブな面を見つけ合うことだと感じました。

名和氏:その通りですね。ちなみに、施策の成果として、社員のエンゲージメントは測っていらっしゃるのですか。

足立:よくぞ聞いてくださいました(笑)。社員のエンゲージメントは定期的に調査を行っており、施策の実施後、明らかに数字が良くなっています。

名和氏:それはうれしいですね。目に見える形で成果が追えるのは、今後も楽しみですね。

新規事業創出と既存事業拡大を、ともに未来志向で推進する

経営学者名和高司氏 キヤノンマーケティングジャパン 代表取締役足立正親

足立:実は、パーパスの公表と同時に、新規事業の創出に取り組む「R&B (Research & Business Development)※1」の専門組織「R&B推進センター」を立ち上げました。パーパスの実現に向け、解決する社会課題の領域を広げるための取り組みの一つです。
さらには、その活動の一環として、コーポレートベンチャーキャピタル(以下、CVC)ファンドを設立しました。スタートアップ企業とのオープンイノベーションの加速も図っていきます。

名和氏:それは素晴らしい取り組みですね。

足立:ありがとうございます。こうしたバックキャスティング※2としての動きは、フォアキャスティング※3と両面で具体化させていくことが必要です。そのため、クロス・ファンクショナル・チーム(CFT※4) も立ち上げました。「R&B推進センター」との連携で、既存事業の拡大と新規事業の創出の両面を実行していくことを考えています。両者がともに未来志向で技術やビジネスアイデアを探索しながら、可能性があれば、未来を待たず現在のビジネスへの活用を検討していきます。

名和氏:既存事業こそ、収入の土台となることが多い。もちろん新規事業には力を入れるべきですが、ゼロからのスタートなので、より難しさを伴います。並行して既存事業にも力を入れ、維持拡張していくのは、とても良い考えですね。

ちなみに、バックキャスティングとフォアキャスティングを考えるとき、私はよく、「ヘンシン(変身)」と「ヘンタイ(変態)」の話をします。多くの人は「変身」願望がありますが、被り物を被っただけでは結局のところ中身は変わりません。新たなビジネスモデルや新規事業に取り組んでみたいと外見だけ取り入れても、中身が変わらなければ身に付かないのです。

蝶が卵、幼虫、さなぎ、成虫と「変態」するように、企業も体の内側から変わる必要があります。自社の潜在的な可能性を、社会の潮流など外からの刺激によって開花させていく。これが企業で根付く進化の姿だと思います。

足立:バックキャスティングの考え方に組織や体制といった外枠だけを無理に合わせようとすると「変身」になってしまうのですね。

名和氏:そうです。既存事業など自社のアイデンティティと未来への革新を分離させず、すり合わせて摩擦を起こします。そうすることで、自社だからこそ実現すべき未来のビジネスが内発的に生まれてくる。この本質的な変化が「変態」です。

足立:新たに立ち上げた専門組織を「R&D※5」ではなく「R&B」と名付けた狙いと、近いかもしれません。優れた技術やアイデアという手段だけを追うのではなく、「自分たちは何をしていくべきか」という構想や信念を持って事業開発を進め、社会課題を解決する。そして、その領域を広げていく組織であることを表したかったのです。

名和氏:R&Bで投資する企業との共創が、より良い刺激になるといいですね。既存アセットとの連携により、全社にイノベーションの種がまかれるかもしれません。

  • ※1
    R&B (Research & Business Development): 最先端の技術やビジネスアイデアなどのリサーチ機能(Research)と新たなビジネスを創造する機能(Business Development)の2つの機能を合わせ事業創出を行う
  • ※2
    バックキャスティング(Backcasting):未来のあるべき姿を定義して、そこを起点とし、逆算して実現への道筋を立てること
  • ※3
    フォアキャスティング(Forecasting):現在を起点とし、現状の延長線上で、近い未来を予測すること
  • ※4
    クロス・ファンクショナル・チーム(Cross Functional Team) :部門や役職を問わず、組織横断で 必要な人材を集めたチーム
  • ※5
    R&D(Research & Development):研究開発

パーパスを道しるべに、「未来マーケティング企業」として価値を創出していく

経営学者名和高司氏

名和氏:最後に、もう一つだけ。パーパス公表とともに、キヤノンMJグループは「未来マーケティング企業」であると宣言されましたね。私は、未来マーケティングという言葉にとても惹かれます。

マーケティングという言葉をどう定義するか、という話になりますが、私はほぼ「イノベーション」と同義だと考えています。単に新しい技術が生まれるだけではなく、新たな市場が創造されて初めてイノベーションなのです。市場創造とはマーケティングそのもの。マーケティングの正しい訳語は「市場創造」だと考えています。

これは、まさに「未来を切り拓く」力強さがなければ実現できません。プロダクトアウトでは駄目で、かといってお客さまの声に応えるだけのマーケットインでは足りない。一人ひとりがマーケッターになり、想いを持って市場をつくっていくことが大切です。

キヤノンマーケティングジャパン 代表取締役足立正親

足立:私もまったくそう思います。お客さまに寄り添うことは大切ですが、“御用聞き”ではありません。対等な立場として接し、お客さまが気付いていない潜在的な課題やニーズを見据えながら優れた創造性のある提案をし、未来を一緒に描いていく。それが私たちの市場創造であり、マーケティングです。

名和氏:そうした想いも、パーパスのストーリーから感じ取れますね。

実はパーパスって「徳」とも言えると思うのです。常に大上段に振りかざして声高に叫ぶものではなく、日々の行動に埋め込まれているもの。実行の裏側に、その会社らしい真摯さ、真面目さがあるかどうか。パーパスを公表するということは、社会からそうした本質を、より注視されることでもあります。

足立:本当にその通りですね。パーパスがあるから会社が成長するわけではない。ただ、日々の仕事を誠実に進めるなかで、何かあったときに立ち返るべき道しるべだと捉えています。

名和氏:改めて、ぜひパーパスの想いをしっかりと浸透させていただきたいと思います。御社がパーパスを体現する姿を拝見していくことを楽しみにしています。

足立:ありがとうございます。パーパスをキヤノンMJグループの方向性を示す星座群と捉え、未来マーケティング企業であるという自覚を持って進んでいきたいと思います。本日は本当にありがとうございました。

経営学者名和高司氏 キヤノンマーケティングジャパン 代表取締役足立正親