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人ごとではない「生死を分ける10分間」。誰でも使えるAEDが救命の可能性を上げる

2024年6月20日

こんなところにキヤノンMJ

突然、自分の近くで人が倒れたら、皆さんは迅速に動けますか? 総務省消防庁「令和5年版 救急・救助の現況」によると、119番通報から救急車が到着するまでの時間は全国平均約10分。倒れた人が心停止を起こしている場合、この10分間で生存率は下がり続けます。

「そんなときは、すぐにAEDを探して、迷わずに心肺蘇生処置を行ってください」というのは、キヤノンマーケティングジャパン(以下、キヤノンMJ)のコンシニエ 千佳さん。また、心肺蘇生法(以下、CPR)講習などAEDの普及を担当するキヤノンシステムアンドサポート(以下、キヤノンS&S)の斎藤 圭佑さんは、「どんな人でも、AEDを使って心肺が停止した人の救命を行うことができる」といいます。

公共施設や商業施設、スポーツ関連施設などで見かけたことはあるけれど、そもそもAEDって何? 勝手に使っていいの? そんな疑問に、コンシニエさんと斎藤さんが答えてくれました。

どんな人でも人の命を救うことができる

キヤノンシステムアンドサポート サービス事業推進本部 斎藤 圭佑さん(左)
キヤノンマーケティングジャパン オフィスデバイス企画部 コンシニエ 千佳さん(右)

まず、AEDは何をするための機器なのか教えてください。

コンシニエ:AED(自動体外式除細動器)とは「Automated External Defibrillator」の略ですね。心停止した人に電気ショックを与え、心臓を正常な働きに戻して救命するための医療機器です。※1

電気ショックですか! それは医療従事者でなくても使えるんでしょうか?

コンシニエ:もちろん使えます。そもそも「突然心停止した人の周囲に医師がいる」なんてことは稀ですから。日本では、2004年より、医療従事者でない人でも救命のためにAEDを使えるようになりました。

斎藤:心原性が原因で突然心停止となる人は年間約9万人(2022年時点)です。人ごとではない数字ですよね。

AED一式

最近、街中でもAEDを見かけるようになったのは、そういう背景があるからなんですね。

コンシニエ:最近は、公共施設や商業施設、スポーツ関連施設だけでなく、企業が職場などに設置するケースも増えています。企業にAEDの設置義務はありませんが、従業員への安心配慮として企業が取り組むべき重要な項目の一つといえるでしょう。

斎藤:意識の高まりとともに、2022年末時点で、日本国内では約67万台のAEDが設置されていると推定されます。これは世界でもトップクラス。その反面、実際に心停止後にAEDが使われた割合は約4.3%。残念ながら、先進国の中では低い方です。

コンシニエ:キヤノンMJグループでは、AEDの普及とともに、そのような現状の改善を目指し、社会課題を解決するという想いをもって2009年よりAED機器の取り扱いを開始しました。販売だけでなく、CPR講習や適正配置のアドバイスまで包括的に取り組んでいます。

使える場所にあっても、使える人がいなければ意味がない

日本においてAEDの使用率が低いのはなぜでしょう?

コンシニエ:大きな理由は二つ。AEDが適正な場所に配置されているケースが少ないこと、AEDを使える人が少ないことですね。

あれ? ちょっと待ってください……。「適正な場所に配置されていない」とはどういうことでしょうか? 設置台数は世界でもトップクラスなんですよね?

斎藤:適正な配置とは、もしものとき、すぐに取って来られる場所にAEDがあることです。心停止した人の救命率は1分毎に約10%ずつ下がるといわれ、そのため、AEDを取りに行って戻ってくるまでの時間は2分以内が望ましいとされています。距離にすると往復300〜350メートルの範囲内ですね。台数が増えても、AEDまで遠すぎると意味がないんですよ。

コンシニエ:分かりやすい場所、誰でも入れる場所であることも大切です。キヤノンMJグループでは、適切な配置に関するアドバイスも提供しています。救急車が到着するまでのなるべく早い段階でAEDを使えるようにするためにも、設置場所はとても重要です。

斎藤:例えば、キヤノンS&Sでは日本全国約150ある拠点すべてにAEDを設置し、万が一、社員が心停止した際にいち早く対応できるよう、安心・安全な職場環境を提供しています。また、一部の拠点では社員以外の方も使っていただけるようにしています。

社員や地域の人が、安心して生活できるようにしているのですね。

斎藤:はい。もしものときには、できる限りどなたでも使用できるようにしています。また、今までは、本社や人数の多い拠点にのみ配置している企業が少なくなかったのですが、今では、弊社のように全拠点に設置する企業も増えています。※2

コンシニエ:最近では、タクシーやバスなどの公共交通機関だけではなく、工事の作業用車両やキッチンカーなどに車載されるケースも増えているんですよ。

一歩を踏み出すためのCPR講習

もう一つの課題、「AEDを使える人が少ない」ことについてはいかがでしょう? 実際、AEDを使うことはなかなか勇気がいることと思います。「医師ではない自分が」といった心理的なハードルもあるでしょうし……。

斎藤:突然のこと、しかも人命に関わることになるので、確かに勇気がいりますよね。そこで重要なのが講習です。実際の手順を経験しておくと、「使うこと」のハードルは下がると思いませんか?

キヤノンS&Sでは心肺蘇生を学ぶ「CPR講習」を提供していて、講習ができるインストラクターは現在400人。各都道府県に必ず1人はいるという体制を整えています。

CPR講習を受ければAEDは使えるようになりますか?

斎藤:はい。ただ、間違って欲しくないのは、AEDは「CPR講習を受けないと使えない」わけではないということ。基本的には、誰もが使えるようになっています。講習は、心理的なハードルを越えて、よりスムーズに使えるようになるためのものと考えてください。

講習は60分で、心肺蘇生の一連の流れを学ぶことができます。まずは「大丈夫ですか」という声かけから始まり、周りの方に119番通報とAEDを取ってくるように要請します。その後、胸骨圧迫(心臓マッサージ)をし、AEDが到着したら、AEDで電気ショックを与えながら胸骨圧迫も継続します。なお、AEDのパッドをあてるとAED自体が使用の「要/不要」を判別するので、実施者に「使う/使わない」の最終判断が委ねられることはありません。※3

コンシニエ:AEDの使用にあたって、資格などは何も必要ありません。定期的に講習を受けて、もしものときに躊躇なく使える勇気を持っていただきたいです。

少し前の出来事ですが、キヤノンMJグループの社員が、個人的に参加したマラソン大会で意識不明になった人に遭遇し、AEDを使って救助したそうです。これを聞いたとき、私たちの活動が役に立った、命を救うことができたのだと本当に嬉しかったです。

斎藤:キヤノンS&Sでも、一昨年、新入社員4人が、CPR講習を受けた翌日に傷病者を発見。幸いAEDの使用は不要でしたが、119番通報やAEDの手配要請など迅速に対応できたと聞きました。※4

お話を聞いて、少しハードルが下がった気がします。ところで、キヤノンMJグループでは、AEDの販売だけでなくCPR講習にも力を入れているのはなぜですか?

コンシニエ:私たちは、キヤノングループの企業理念「共生」のもと、事業を通じた社会課題の解決に取り組んでいます。AEDで一人でも多くの命を救うことは、この理念にも通じる活動です。だからこそ、人命救助を学んでいただけるCPR講習は重要な任務だと考えています。

斎藤:実は、AEDを販売する企業で、全国で統一した基準でCPR講習を提供しているのは私たちだけなんです。キヤノンMJグループはインストラクターの数を増やすだけでなく、講習のクオリティーをさらに高めるために、講習に定評のあるメンバーを「CPR講習の達人」と社内認定して、スキルの標準化とともに、より質の高い講習を提供できる体制を整えています。

【キヤノンMJグループの社員がマラソン大会で人命救助!】

心停止はどこでも起こりうると体感したのは、キヤノンMJの高島 拓也さんです。高島さんは2023年、川崎市で毎月行われる「月例川崎マラソン」に参加中、50代と思われる参加者の男性が仰向けに倒れている場面に遭遇しました。

AED販売に携わり、CPR講習も受講していた高島さんは、まず救急車を呼んでいるのかを確認し、続いて脈と心音を確認、反応がなかったため胸骨圧迫を開始しました。周囲の人にAEDを取りにいくようお願いし、ほかの人と交代しながら胸骨圧迫を続けたそうです。

その間約1分。AEDが到着し、AEDのパッドを貼り付けて心電を計測しながら胸骨圧迫を継続します。しばらくすると男性の意識が戻り、手が動き、目も動き始めました。続けていた胸骨圧迫を中断して声をかけようとしたところ、「続けて」という周囲の声があり、継続。男性の目の焦点が定まってきたところで胸骨圧迫を停止しました。

救急車が到着したときには、男性の意識は回復し状況が理解でき始めていました。救急隊員に対応を引き継ぎ、高島さんの救命活動は終了。この男性は病院搬送され、数日入院したのちに無事退院し、現在は以前と同じ日常生活を送っているそうです。

「知っていることと経験することは別。CPR講習を受けて知識があり、日頃から人が倒れたらどう動くかをシミュレーションしていたからこそ、即座に行動することができた」と高島さんは当時を振り返りました。

救える命を1つでも多く救いたい

斎藤さんにAEDの使い方を学ぶ

AEDを使うためにもCPR講習が重要ということがよく分かる出来事ですね。続けて、今後の目標を教えてください。

斎藤:先日、私たちのCPR講習を受けた人数が延べ23万人を超えました。次なる目標は、この受講者数をいち早く30万人に到達させることです。受講者が増えて、AED機器の適正な設置が進むことで、救われる命も増えると信じています。やりがいがありますよ。

コンシニエ:AEDは機器を提供すれば終わりではありません。救える命を少しでも増やすため、適正な場所に設置して、使える人も増やす必要があります。そのためにも、今後はAEDとCPR講習をセットで認識してもらえる活動にも力を入れていきたいと思います。

斎藤:地域との取り組みも進めています。先日、山梨県の富士川町で開催された「第14回 甲州富士川まつり」ではAEDのブースを設けて、住民の方にAEDや応急手当てについてお伝えしました。大阪では、AEDについての取り組みが評価され、大阪市消防局より「優良応急手当普及啓発事業所」として表彰されました。今後も自治体や消防局などと連携しながら、地域の安心・安全の一端を担っていきたいです。

コンシニエ:心停止した人がいる場面に遭遇したときは、救急車を呼ぶだけでなく、心肺蘇生とぜひAEDを探して使ってください。繰り返しになりますが、救急車が到着するまでの間にAEDを使用した心肺蘇生処置ができれば、救命できる確率は上がります。私たちの活動を通じて、勇気ある一歩を踏み出せる人が増えることを願っています。

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