「印刷が変われば、日本のビジネスは大きく変わる」
印刷を知り尽くした道の先に描く、未来像とは
2025年3月10日


カタログ、ポスター、POP、商品パッケージ、ビジネスに関する書面など、私たちの日常生活やビジネスのあらゆるシーンと密接に関わっている「印刷」。
そんな印刷の世界で30年近くキャリアを重ね、さまざまなソリューション提供によって企業の課題解決に力を注いできたのが、キヤノンプロダクションプリンティングシステムズ(以下、キヤノンPPS)でマーケティング・商品企画を担当する野呂 浩司だ。
海外の印刷業界にも深いつながりを持ち、国内外の印刷事情に詳しい野呂は「日本のデジタル商業印刷は、伸びしろしかない」と話す。新しい価値創造にチャレンジし続けている彼が思い描く印刷の未来と、情熱の源泉に迫る。
チラシからバスのラッピングまで。社会はさまざまな印刷技術によって支えられている
「印刷」と聞くと、パンフレットやチラシ、書籍などを思い浮かべる人が多いかもしれない。しかし、日常で何気なく目にする多くのものが、実は印刷によって支えられている。
「挙げればキリがないですが、私が過去に担当したものでは、インテリアの壁紙や、バスなどの車体に広告を施すラッピング車両、商業ビルなどの壁面に掲出される垂れ幕などが身近に感じていただきやすい例でしょうか。他にも、電柱に掲示されている広告看板なども、印刷技術が支えているんですよ」

そう話す野呂が所属する、キヤノンマーケティングジャパン(以下、キヤノンMJ)グループのキヤノンPPSは、社会に欠かせない印刷のプロフェッショナルとして、お客さまの課題解決に取り組んでいる。野呂が例を挙げた「産業印刷」と呼ばれるものをはじめ、販促物やマニュアルなど、企業の事業活動に使われる「商業印刷」、書籍や雑誌などの「出版印刷」、データをもとに、請求書や納付書など個々に異なる内容を印字する「データプリントサービス」ほか、多種多様なニーズに応える製品・ソリューションを持つ。

「お客さまのニーズやビジネス課題を捉えた企画提案はもちろん、印刷機器を効率的に活用するためのデータセットの構築や、お客さまの利用目的に沿ったソフトウエアを制作することもあります。単に印刷機器やサービスをご提供するのではなく、どうすればお客さまのビジネス成長につながるのかを考え、コンサルティングからソリューション提案、機器の導入から運用・保守まで、ワンストップで実現できる点が、私たちの強みです」
現在、野呂は、長年の経験を生かして商業印刷、産業印刷などの枠を横断し、幅広い分野でマーケティング・商品企画を担当している。また、商業印刷市場で欧州トップシェアを誇るキヤノンプロダクションプリンティングホールディング(以下、CPP)と連携し、ドイツ、オランダ、シンガポール拠点とのコミュニケーションを通じて日本とグローバルの架け橋になる役割も担う。
「印刷」を通じて、国内外のお客さまの課題解決に奔走し続けたキャリア
今でこそ印刷を熟知し、海外とのコミュニケーションに豊富な経験を持つ野呂だが、社会人となった当初は、特に印刷に興味があったわけではなく、英語も全く話せなかった。学生時代に専攻し、留学経験があったドイツ語は話せたため、たまたま入社した印刷機器メーカーで海外向け営業を任され、そこから世界各地を飛び回る生活が始まった。
「営業や展示会のサポートに向け、1カ月ほどさまざまな国を転々とする出張を、年に3〜4回繰り返していました。英語は不得手でしたが、多くの国で求められるのは、やはり英語。間違っても、とにかく喋らないと何も前に進みませんでした。生活でも店の人と話が通じず、気づいたら自分の後ろに長い列ができてしまうことも。いろんな恥ずかしい失敗をして鍛えられました」
それでも欧州をはじめ、さまざまな国の人たちと商談する経験を重ね、徐々に英語力と印刷に関する知識を身につけた。4年ほど経験した後、オランダのデジタル印刷機器メーカー・オセプリンティングシステムズから声がかかり転職。ドイツ・日本の拠点でサービスサポートを担った後に、経営統合をきっかけにキヤノンPPSへ転籍し、現在まで続く商品企画担当となる。
「商品企画といっても、お客さまにソリューションをご提供するために必要なあれこれを担う “何でも屋さん”です。新製品・サービスの立ち上げや商品化推進はもちろん、製品の法規制への対応や品質保持サポートなども担当します」

広範囲に及ぶ業務の中でも、グローバル経験が長かった野呂は、海外製品を日本に仕入れて商品化する役割を多く担ってきた。特に印象に残っているのは『ProStream』というシリーズを日本で商品化したことだ。
「当時、印刷業界ではデジタル印刷※1が普及しつつありましたが、一般的に印刷に使用される用紙をインクジェットで印刷するためには技術的な課題が多く、高い品質が求められる成果物には従来のオフセット印刷※2が主流となっていました。
しかし『ProStream』は、デジタル印刷が持つスピードの速さや、小ロットに対応できるメリットはそのままに、コート紙・上質紙への美しく鮮やかな印刷を実現する画期的な製品でした。商業印刷や出版印刷の生産性を大幅に高めることができると考え、日本での販売を企画したのです」
販売計画や海外との交渉は順調に進んでいったが、いよいよ日本に出荷する数日前に問題が発生する。電流に関する規格が日本の法律に適合していないことが判明したのだ。
「出荷直前だったので、もう大パニックでした。キヤノンMJの法務担当者ともさまざまな検討をして、最終的に他の機器を追加することで日本の法律に適合させる方法をとり、何とか販売にこぎ着けました」
想定外の苦労はあったものの、製品は出版業界で採用され、結果的に生産性向上に大きく貢献したという。
「オフセット印刷からデジタル印刷に切り替えたことにより、印刷そのものがスピードアップしただけではなく、前後の生産プロセス・業務フローも大きく効率化されました。つまり、印刷機器を一つ変えることが、組織の変革を促し、お客さまの会社全体の生産性向上につながったのです。最初こそ変革の労力がかかりますが、中長期的に見ればメリットが大きく、将来的なお客さまの課題解決や競争力強化につながります」
こうした経験から、「印刷が変われば、日本のビジネスが大きく変わる」という野呂の信念が育った。
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※1
デジタル印刷:版が不要で、多品種小ロットの印刷に適している。当初はトナー方式で普及が始まったが、近年では対象に直接インクを吹き付けるインクジェット方式が普及してきた。かつてはオフセット印刷に品質が届かなかったが、技術の向上により、現在は遜色ない仕上がりを実現する
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※2
オフセット印刷:版を作成して刷る、従来の印刷方法。一度に大量に印刷することに適している。仕上がりが高品質であり、特殊インクなどを活用した多彩な表現なども得意とする
「印刷事業の未来を切り拓く」ため、組織横断でコンサルティング力を磨く
「印刷機器の導入や関連するシステム開発、運用サポートはもちろん、印刷前後の生産プロセス・業務フローの変革まで一気通貫でサポートすることができるのが、キヤノンPPSの強みだと思います。さまざまな知見を持ったメンバーが揃い、一人では成し遂げられないことにチームで力を合わせてチャレンジする。そうしてお客さまのビジネス成長に貢献できることが、この仕事のやりがいです」と野呂は話す。

そんな想いを胸に、今、野呂が力を入れているのが、商品企画や営業、サポートなどの組織横断で取り組む「印刷事業の未来を切り拓く」タスクフォースだ。商業印刷市場で欧州トップシェアのCPPとのやり取りを通じて海外のノウハウを吸収し、販売戦略や人材育成に還元していくことを目指している。
「日本の印刷業界の市場規模は、1990年代初頭をピークに縮小し続けているといわれています。しかし、商業印刷や産業印刷など、需要が高まっている領域もあるのです。市況やニーズの変化に合わせ、お客さまのシステムや現場の変革につながる提案力やコンサルティング力をもっと磨いていく必要があります。先んじてそのようなノウハウを豊富に持つCPPから学び、日本の市場や商習慣にフィットしたやり方に落とし込むのが私たちの役割です」
野呂はリーダーとして、このタスクチームを牽引。自身が培ってきた国内外の印刷に関する知識や、グローバルにコミュニケーションをとる姿勢なども、後輩社員に伝えていきたいと考えている。
印刷から、日本のビジネス、そして社会を大きく変える
商業印刷のデジタル化は海外の方が活発に進んでおり、通説として『日本は10〜20年ぐらい遅れている』といわれている。そうした状況を身をもって知っているからこそ、野呂は印刷の変革によって日本のビジネスをより良く変えたいと、熱い想いを抱いている。
「これまでの商業印刷は、一度に大量に印刷した方が一冊あたりのコストが抑えられるため、良いと考えられてきました。しかし、大量に刷った印刷物を保管するコストがかかりますし、余剰を出す可能性も高くなります。
例えばカタログの場合、掲載商品のモデルチェンジが発生すると、そのカタログは不要となってしまいます。廃棄のコストがかかりますし、何よりサステナビリティの観点からも望ましくありません」
市場ニーズの変化が速く、商品の入れ替わりも激しくなる今、デジタル印刷で「必要なときに必要な分だけ印刷する」、いわゆるオンデマンド印刷の仕組みを印刷業界にもっと普及させていきたいと野呂は考える。その品質は、すでにオフセット印刷と遜色ないところまで向上している。印刷の目的や部数によって適した印刷方法を使い分ければ、業界も社会もより良い方向に変えていける。

「それでも、日本の印刷業界でデジタル化がなかなか進まない理由の一つは、印刷前後の生産プロセス・業務フローの変革へ労力を費やすことに、多くの企業が消極的だからです。中長期的な視点で見れば、人手不足などの課題解決や競争力強化につながるものの、短期的な利益が優先されがちです。また、デジタル印刷を導入すると印刷の方式だけでなく運営も変わります。デジタル印刷機を効率的に回すために営業の方法、ひいては組織のあり方なども変える必要があるでしょう。さまざまな課題に直面されるお客さまに寄り添い、取り組みを微力ながらお手伝いさせていただきたいと思っています」
そうした支援に生かされるのが、キヤノンPPSが有する強みだ。
「印刷を熟知するだけでなく、ビジネス成長に貢献できるさまざまな知見を持ったメンバーがチームを組み、一気通貫でお客さまをサポートすることができます。『経営をこう変えていきませんか』とご提案し、お客さまと共に新たな印刷の価値創出に挑んでいきたいと考えています」
徐々に、デジタル印刷を通じた新たな体験提供も生まれつつある。例えば、ECデータと連動させ一人ひとりに最適なダイレクトメールを届ける、個々の学習進度に合わせた最適な教科書で学ぶ、また海外の稀少な本をすぐに手に入れられるなどが挙げられる。
Eメールをはじめネット上でやりとりされる情報量が膨大化する中、印刷というアナログだからこそ伝わることがある、と野呂は話す。データと連携し個別最適化できる新たな印刷のあり方なら、新たな価値を生み出せる。それは、お客さまのビジネス成長への貢献はもちろん、環境負荷や人手不足といった課題を改善し、社会全体をより良く変えていくことにもつながる。
「商業・産業印刷など特定の印刷分野に留まらず、幅広い視点での価値創出を任される今、さらに自由に事業開拓に力を入れられるようになりました。これからも思いっきりチャレンジしていきたいです」と話す野呂。「印刷から、日本のビジネス・社会を大きく変える」新たな挑戦はまだ始まったばかりだ。

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